「見捨てるわけじゃない」親子が別々に暮らして変わったこと
芳江さんは、娘の決断をすぐには受け入れられませんでした。
「私を一人にするの?」
そう言われ、由紀さんも何度も迷いました。
「何かあったら来るから」
実家から遠く離れるつもりはありませんでした。週に一度は様子を見に行き、通院など一人では難しい用事があれば手伝うことにしました。
一方、それまで由紀さんが担っていたことも整理しました。
日常の買い物は、徒歩圏のスーパーと宅配サービスを利用。通院はバスやタクシーを使います。芳江さん自身にも、「娘がいない日にどう生活するか」を考えてもらいました。
別居から数ヵ月後、由紀さんが驚いたのは、母が想像していた以上に一人で生活できていたことでした。
「宅配って便利ね。重いものも持ってきてもらえるし」
以前は娘に頼んでいた日用品も、自分で注文するようになりました。
由紀さんにも変化がありました。家賃や光熱費などで月10万円以上支出は増えましたが、仕事帰りにそのまま友人と食事をしたり、休日に自分の予定を入れたりできるようになりました。
「今まで母に禁止されていたわけではないんです。でも、『今日は早く帰ったほうがいいかな』と自分で考えてしまっていました」
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、要介護者等の主な介護者は、同居する家族が45.9%を占め、そのうち「子」は16.2%です。家族が介護を担うケースは依然として多い一方、介護保険サービスなどを利用しながら生活を支える方法もあります。
芳江さんは現在、介護を必要としていません。ただ、今後に備えて由紀さんは地域包括支援センターの場所や、利用できる生活支援サービスについて確認しました。
別居して半年ほど経ったころ、芳江さんからこんな言葉が出ました。
「最初はどうなるかと思ったけど、一人なら一人で何とかするものね」
由紀さんも、実家を訪れた日は以前より母との会話が増えたといいます。
親子の同居には、経済面や安心感など多くのメリットがあります。一方、長く一緒に暮らしていると、家族が担っている家事や移動、手続きなどがいつの間にか当然になることもあります。
別居するか同居を続けるかに、一律の正解はありません。重要なのは、親子のどちらか一方が生活を支え続ける状態になっていないかを確認し、年齢や生活状況の変化に合わせて役割を見直すことです。
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