「親なんだから助けてよ」その一言で決めたこと
その翌月、浩平さんから再び連絡がありました。
「今月、カードの支払いが厳しくて。5万円お願いできる?」
久美子さんは、初めてその場で断りました。
「もう出せないよ」
浩平さんは驚いた様子でした。
「5万円くらいあるでしょう?」
「あるかどうかの話じゃないの。あなたのためにお金を使うのは、もう終わりです」
電話の向こうでしばらく沈黙が続きました。
「親なんだから、困っているときくらい助けてよ」
その言葉を聞いて、久美子さんは決意が揺らがなくなったといいます。
「今までは、私が好きで出していると思っていたんです。でも、息子にとっては、困ったら母親がお金を出すことが当たり前になっていたんだと思いました」
久美子さんは、これまでの振込額をノートに書き出し、浩平さんにも見せました。
3年間で約150万円。毎月4万円でも1年間なら48万円になります。
「このお金は、私が病気になったときや、介護が必要になったときにも使うお金なの。あなたに全部渡せるお金じゃない」
浩平さんは「そんなに使ってもらっていたとは思わなかった」と話しました。
そこで久美子さんは、援助を再開する代わりではなく、まず浩平さん自身の家計を整理するよう求めました。
確認すると、動画配信サービスやスマートフォンの有料オプション、ほとんど利用していないジムなど、毎月2万円近い固定費がありました。外食費やネット通販も多く、カードの支払額を本人が正確に把握していなかったといいます。
浩平さんは契約を整理し、給料日に一定額を別口座へ移すようにしました。久美子さんからの定期的な援助は、それ以降受けていません。
厚生労働省の『生活困窮者自立支援制度』では、生活や仕事、家計に関する相談を受け、本人の状況に応じて支援を行っています。収入がある場合でも、家計管理が難しく生活が立ち行かなくなるケースはあります。家族だけで解決が難しい場合には、自治体の相談窓口などを利用することも選択肢になります。
久美子さんは、長男への援助をやめた分を自分の生活にすべて使っているわけではありません。給湯器を交換し、将来の医療費や介護費として毎月一定額を残すようにしました。
「息子を助けたことを後悔しているわけではありません。ただ、いつまで助けるのかを決めないまま続けたことは、よくなかったと思っています」
成人した子どもへの援助は、一時的には大きな助けになります。しかし、期間や金額を決めないまま続ければ、親自身の老後資金だけでなく、子どもの家計管理にも影響を及ぼすことがあります。
親の老後と子どもの生活、そのどちらも無理なく続けられる形を考えることが、長期的には双方にとって大切になるのでしょう。
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