「今年はいつ帰ってくる?」毎年帰省を楽しみにしていた母
「母は、僕たちが帰るのを楽しみにしていると思っていたんです」
そう話すのは、会社員の直樹さん(仮名・46歳)です。
直樹さんは妻と中学生、小学生の子どもの4人暮らし。実家までは車で約3時間かかるため、普段はなかなか顔を出せません。その代わり、夏休みと年末年始には2泊ほどするのが恒例でした。
実家では68歳の母・和子さんが一人で暮らしています。父親は5年前に亡くなりました。
帰省が近づくと、和子さんから決まって電話がかかってきます。
「今年はいつ帰ってくる?」
「孫たちは何が食べたいって?」
直樹さん一家が到着すると、冷蔵庫には肉や魚、ジュース、デザートまでぎっしり。夕食には刺身や揚げ物などが並び、翌朝には朝食も用意されていました。
「母に『そんなに用意しなくていいよ』とは言っていました。でも、『たまにしか帰ってこないんだから』って。母自身がやりたいんだと思っていたんです」
ところが今年の夏が終わって間もないころ、年末の予定について電話で話していた直樹さんに、和子さんが突然こう言いました。
「年末は、もう無理して帰省しなくていいからね」
直樹さんは驚きました。
「何か予定あるの?」
そう聞いても、「別にないよ」と言います。
「じゃあ、行くよ。子どもたちもおばあちゃんに会いたいだろうし」
すると和子さんは少し黙ったあと、「来てくれるのはうれしいんだけどね」と前置きして話し始めました。
4人が泊まるとなれば、数日前から布団を出して干し、普段使っていない部屋を掃除します。食事の献立を考え、買い物へ行き、当日は料理。帰ったあとはシーツやタオルを洗い、布団を片づけます。
「みんなが帰った次の日は、何もしたくなくなるのよ」
その言葉を聞いて、直樹さんは初めて「帰省する側」と「迎える側」では、同じ2泊3日でも過ごし方がまったく違うことに気づいたといいます。
「僕らは実家だから気楽に過ごしていた。でも母は、ずっと働いていたんですよね」
