「海の近くで暮らしたい」退職後に決めた住み替え
「この家を売って、海の近くに引っ越そうと思う」
父の一郎さん(仮名・71歳)からそう聞いたとき、長女の美紀さん(仮名・45歳)はすぐには賛成できませんでした。
一郎さんは妻の久美子さん(仮名・71歳)と二人暮らし。夫婦の年金は月約25万円で、預貯金は約2,500万円あります。
二人が暮らしていたのは、現役時代に購入した都市部の戸建てでした。住宅ローンは完済していましたが、築30年を超え、外壁や屋根の修繕が必要になっていました。2階もほとんど使わず、庭の手入れも負担になっていたといいます。
以前から夫婦には、「仕事を辞めたら海の見える町で暮らしたい」という希望がありました。ただし、選んだのは海沿いの一軒家ではありません。
何度か現地を訪れ、駅から徒歩圏内にスーパーや病院がある地域を探し、最終的に高台に建つ中古マンションを購入しました。窓から海を望めますが、ハザードマップも確認し、津波浸水想定区域は避けています。
自宅の売却代金から住宅ローンの残債はなく、仲介手数料などを差し引いたうえで新居を購入。引っ越し後には約1,800万円が手元に残りました。
「もっと海のそばにも家はあったけど、毎日暮らすならスーパーと病院のほうが大事でしょう」
久美子さんはそう話します。
美紀さんが最も心配していたのは車でした。父は運転しますが、母はほとんど運転しません。
そのため、新居は駅まで徒歩約10分、スーパーまで7分ほど。内科や歯科も徒歩圏内にあり、将来車を手放しても生活できることを条件にしました。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、今後の住み替え意向がある65歳以上の夫婦世帯が居住環境で重視する点として、「日常の買物などの利便」が42%と高く、「医療・福祉・介護施設の利便」も17%となっています。高齢期の住み替えでは、景観だけでなく日常生活の利便性が重要な条件になっています。
