「ここなら安心だから」家族に勧められて決めた住み替え
「お母さん、そろそろ一人暮らしは心配だよ」
長男の隆志さん(仮名・55歳)がそう話したのは、母・節子さん(仮名・82歳)が自宅で転倒したことがきっかけでした。
節子さんは夫を亡くしてから12年間、一人暮らしを続けていました。年金は月約13万円。住宅ローンを完済したマンションに住み、近所のスーパーへも自分で買い物に出かけていました。
ところが80歳を過ぎるころから足腰が弱り、通院にはタクシーを使うことが増えました。浴室で転倒した際も大きなけがには至りませんでしたが、隆志さんは「次に何かあったら」と心配するようになります。
隆志さんには妻と高校生の娘がおり、自宅には節子さんの部屋を新たに確保する余裕がありません。そこで家族で相談し、自宅から車で30分ほどのサ高住を見学しました。
室内はバリアフリーで、食事の提供もあります。職員がいるため、何かあったときに一人きりになる心配も減ります。
「ここなら安心でしょう。俺も週末には顔を出すから」
節子さんは最初、「まだ一人で暮らせる」と反対しました。それでも、家族に心配をかけたくないという思いもあり、最終的には入居を受け入れます。
国土交通省のサービス付き高齢者向け住宅制度では、すべての入居者に対する「安否確認」と「生活相談」が必須です。一方、食事や介護、買い物代行、通院の送迎などが提供されるかどうかは住宅によって異なります。つまり、サ高住だから生活のすべてを支援してもらえるわけではなく、契約内容を確認する必要があります。
入居後、隆志さんは最初の2週間、週末ごとに母を訪ねました。
しかし3週目は娘の学校行事、4週目は仕事が入り、訪問できませんでした。電話では「何か困っている?」と聞きましたが、節子さんは毎回「大丈夫」と答えていました。
入居からちょうど1ヵ月ほどたった日曜日、隆志さんが自宅で過ごしていると、インターホンが鳴りました。
玄関に立っていたのは節子さんでした。
「母さん、どうしたの?」
節子さんはタクシーを使い、一人で隆志さん宅まで来たといいます。
「迎えに来てくれると思ったの。でも来ないから、こっちから来たのよ」
