親を支えながら、自分たちの老後も守るために
正志さんが最初に考えたのは、予定していた旅行をすべて取りやめることでした。
「母を置いて遊びに行くわけにはいかないだろう」
そう話す正志さんに、恵美さんは賛成しませんでした。
「今度の旅行をやめるのはいい。でも、この先ずっと予定を入れないという話になったら違うと思う」
恵美さんにも、自分の母親の通院を手伝うことがあります。夫の退職後は、二人で過ごす時間を楽しみにしていました。
そこで夫婦は、房子さんの今後について地域包括支援センターへ相談しました。地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護予防や権利擁護、必要なサービスへの橋渡しなどを行っています。
房子さんは要介護認定を申請し、生活状況を確認してもらうことになりました。元の自宅で暮らし続ける場合に利用できる配食や訪問支援、通所サービスについても説明を受けます。
話し合いの結果、当面は正志さん夫婦の家で暮らしながら、今後の住まいを検討することになりました。ただし、食事や通院を恵美さん一人に任せず、正志さん自身も家事や付き添いを担います。介護サービスを利用できる場合は積極的に使う方針です。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円である一方、消費支出は26万3,979円。退職後は、夫婦自身の生活費に加え、親の支援に伴う交通費や生活費なども考えておく必要があります。
正志さんは、予定していた海外旅行をいったん延期しました。ただし、夫婦の旅行そのものを諦めたわけではありません。房子さんの生活が整えば、ショートステイなどの利用も含め、数日間家を空けられる方法を検討するつもりです。
一方で、時間ができたからといって、いつでも親の都合に合わせられるわけではありません。高齢の親を支える必要が出てきたときは、家族の誰か一人が予定や生活をすべて変えるのではなく、本人の状態を確認し、公的サービスも利用しながら続けられる方法を考えることが大切です。
親の老後と子どもの老後が重なる年代だからこそ、どちらか一方だけを優先するのではなく、それぞれの生活を守れる支え方を早めに話し合っておく必要があります。
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