(※写真はイメージです/PIXTA)

長年連れ添った夫婦でも、「家計のことはすべて配偶者に任せている」という家庭は珍しくありません。しかし、その状態は思わぬ事態が起きたとき、大きなリスクになり得ます。妻の急逝で、〈資産3,000万円超〉の72歳男性が直面したのは、「お金がない」のではなく、「お金を使えない」「暮らしを回せない」という現実でした。夫婦の役割分担が生んだ思わぬ落とし穴とは?

息子の「別に、軽蔑なんかしないよ」という一言

葬儀から2週間後、長男の聡さんが様子を見にやってきました。部屋の端にはほこりが溜まりはじめ、キッチンからは微かに生ゴミの匂いが漂い、届いている封書やDMは机に積まれたまま。何より修一さんの顔には覇気がありませんでした。

 

父親の「うまくいっていない生活」の痕跡は、隠しきれていません。そんな修一さんに、聡さんは静かに言いました。

 

「親父、困ってることあったら何でも聞いてよ。電話でもLINEでもしてっていっただろ? ずっと家事を全部お袋に任せてたんだから、急に一人で全部できるわけないだろ。そんなことで誰も親父を軽蔑したりしないよ。うちの奥さんも心配してるんだから」

 

その一言に、修一さんの肩の力がふっと抜けました。「頼れる父親でいなければならない」「生活力がないなんて恥ずかしい」というプライドが解けていくのを感じました。

 

「私は、どこかで『自分のお金で家族を養っている、だから責任は果たしている』と思っていました。ですが、妻がいなければ何もできなかったことに改めて気づきました」

夫婦は一緒に死ねない。だからこそ必要な「生活力の備え」

総務省「令和3年社会生活基本調査」によると、家事関連で1日に費やされた時間は、65歳以上では男性が5.1%であるのに対して女性は15.8%。男女で大きな差があることがわかります。

 

夫婦にはそれぞれ得意・不得意があり、家計管理をどちらか一方が担うこと自体は珍しくありません。しかし、口座や保険、年金、毎月の支払いなど、生活を維持するための情報まで一人しか知らない状態は、大きなリスクになり得ます。

 

「私は、お父さんより長生きするから」という言葉に悪気はありませんでした。ですが人生は、思い描いた順番どおりには進みません。

 

残された家族が困らないよう、元気なうちから家計や手続きについて話し合い、必要な情報を共有しておくこと。それもまた、夫婦がお互いにできる「最後の思いやり」なのかもしれません。

 

 

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