「困っているなら送るよ」息子を支え続けた母
「今月、家賃がちょっと厳しくて……」
長男の直樹さん(仮名・39歳)からそう電話があったのは、大学を卒業して間もないころでした。母の和子さん(仮名・69歳)は、迷わず5万円を振り込みました。
和子さんは夫を8年前に亡くし、現在は一人暮らし。年金は月約14万円、預貯金は約900万円です。住宅ローンを完済したマンションに住んでいます。
直樹さんが大学へ進学した際には、学費の一部を夫婦の貯蓄から負担しました。就職後も、奨学金の返還や一人暮らしの費用が重なっていたため、まとまった出費があるたびに援助してきたといいます。
「社会人なのだから自分で何とかしなさい、と言うこともできたと思います。でも、若いうちは貯金もないでしょう。困ったときくらいは助けようと思っていました」
直樹さんが結婚したときには30万円、新居を購入した際には100万円を祝いとして渡しました。孫が生まれてからも、誕生日や入学祝いを欠かしたことはありません。
現在、直樹さんは妻と2人の子どもを育てています。仕事も安定し、母から金銭的な援助を受けることはなくなりました。
一方、和子さんの生活には少しずつ変化が出ていました。
マンションの管理費と修繕積立金は月約3万円。光熱費や通信費、医療費などを支払うと、年金だけで毎月余裕があるわけではありません。それでも、「子どもにお金の心配をさせたくない」と、直樹さんには家計の状況を話していませんでした。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は14万8,445円。平均では毎月の支出が手取り収入を上回っており、預貯金を取り崩しながら暮らす世帯もあります。
転機になったのは、和子さんが転倒し、手首を骨折したことでした。入院はせずに済みましたが、利き手を使えず、しばらく家事や買い物にも苦労しました。
直樹さんに電話をしたのは、けがから3日後です。
「実は転んじゃってね。でも大丈夫だから」
それを聞いた直樹さんは、母が思っていた以上に強い反応を示しました。
