時期については明言を避けつつ、利上げの必要性を説く
米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は、2月14日米上院銀行委員会で半期に一度の議会証言を行った。今後、3月・5月・6月と連邦公開市場委員会(FOMC)が予定されているなか、「具体的な時期は言えない」としたものの、利上げが必要となる可能性が高いことを明言した。
FRBは昨年2016年を通して、足取りの覚束ない世界経済を念頭に、「Accommodative」な金融政策のスタンスを維持し、結局1回のみの利上げを実施したにとどまった。内需主導型の米国経済の腰の強さを横目で見ながらも、世界経済の先行きへの不透明感が強いことへの配慮から、利上げを見送ってきたというのが正直なところだろう。
しかし、米国経済のみを見れば、イエレン議長も言及するとおり、労働市場は「かなり引き締まって」きており、「雇用の伸びは力強く、長期的に持続可能な水準を上回っている公算が大きい」という状況である。賃金の伸びも着実にあり、消費にも陰りは見られない。従って、このままのトレンドが続けば、インフレ率がFRBの目標とする2%に向け上昇することが予想される。それが、「(現在の)緩和的なスタンスの解除を、このまま待ち過ぎることは賢明ではない」との指摘に繋がっているのである。なお、利上げの回数については、市場は2017年に2度から3度の0.25%の利上げを織り込んできているが、今回の証言では、それに言及することはなかった。
政権の方針によっては、FRBのスタンスに更なる変化も
さらに、注目すべき点は、利上げを遅らせれて後手に回ってしまうと、後追い的により速いペースでの利上げを余儀なくされ、かえってリセッション(景気後退)を招いてしまう恐れが高まるともコメントしている点であろう。このことは、昨年12月の利上げ発表後の会見でも既に認めており、筆者は要注意のコメントであると指摘してきた。FRBにとっては、金利の絶対水準は低く、緩和の度合いとしては依然として、「緩やか(Moderate)」であると認識していることもあり、「インフレ指標が依然として低水準ながらも、足元で上昇していること」から、いざ(インフレ指標が目標値を超えてきた)という場合の金融引き締め(=利上げ)を身構えたスタンスを準備するに至った、との宣言ともいえる。
また、トランプ大統領当選後、FRBが市場の財政政策発動と景気拡大への期待感を感じ取りインフレへの警戒姿勢を強める姿勢にシフトしていることも、既に指摘したとおりである。イエレン議長の議会証言は、今回がトランプ政権の発足後初めてだったが、FRB執行部の警戒感をしっかりと見てとるべきだろう。新政権の財政政策やその他の経済政策の変更により、景気見通しに影響が及ぶ可能性があることはいうまでもないことである。ただ、どのような政策の変更が行われるのか、また経済にどのような影響が及ぶのか把握するのは、具体的な政策の提示すら出来ていない現時点では時期尚早と、政策実現の不透明感を示した。
市場もそうだが、FRB当局者も、トランプ政権下における財政政策の発動や経済政策の変更について、十分な理解も、予測も出来る状態ではないことは、明らかである。当面は、引き続き、政策への期待感を維持したまま、それが裏切られてしまうか、期待が膨らむかという、綱引きの相場展開が続きそうだ。