「半分にすれば終わり」ではなかった夫婦の財産
その夜、洋子さんは長女に電話をかけました。
「お父さんに離婚してほしいと言われたの。私、これからどうやって暮らせばいいんだろう」
翌日、駆けつけた長女は、離婚届を急いで出さず、まず夫婦の財産と年金を確認するよう勧めました。
洋子さんは自治体の法律相談を利用し、後日、弁護士にも相談しました。
そこで初めて、夫名義の預金や自宅であっても、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は、財産分与の対象になり得ると知ります。裁判所も、財産分与を「夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚時または離婚後に分けること」と説明しています。
一方、夫が退職時に受け取った退職金については、婚姻期間や形成への貢献などを踏まえて分与対象になる可能性がありますが、具体的な扱いは個別事情によって異なります。
また、離婚時の年金分割は、夫が将来受け取る年金をそのまま半分受け取る制度ではありません。婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割し、それぞれの年金額に反映させる仕組みです。
合意分割では、当事者の合意または裁判所の決定により、婚姻期間中の厚生年金記録を分割できます。2008年4月以降の第3号被保険者期間については、条件を満たせば、相手の合意がなくても2分の1ずつに分割できる3号分割制度があります。
洋子さんが年金事務所で試算を依頼すると、年金分割をしても、一人で現在と同じ生活を維持できるほどの額にはならないことが分かりました。
そこで洋子さんは、自宅をすぐに売却して現金を折半するのではなく、自分が住み続ける案も含めて話し合うことを求めました。修一さんの退職金や保険、預金口座についても資料をそろえます。
「家事をしてきただけだから、夫のお金に口を出せないと思っていました。でも、35年間の生活は、夫一人で成り立っていたわけではありません」
修一さんは当初、「半分にすれば終わりだ」と不満を示しました。しかし子どもたちも交えて話し合いを重ね、離婚後の住居、財産分与、年金分割について正式な合意書を作ることになりました。
洋子さんは現在、離婚を受け入れるかどうかも含めて検討を続けています。同時に、週数日の事務職を探し、パソコン講座にも通い始めました。
長い結婚生活の末の離婚では、感情の整理だけでなく、年金、預貯金、不動産、保険、退職金などを一つずつ確認する必要があります。相手から離婚を求められても、その場で結論を出す必要はありません。離婚後の生活を具体的に試算し、必要に応じて年金事務所や自治体の相談窓口、法律の専門家へ相談することが、老後の暮らしを守る第一歩になります。
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