前回は、「不採算部門」や「承継しない事業」を処理する方法を説明しました。今回は、「経営理念」を明文化し、後継者と共有する重要性について見ていきます。

知的資産=経営理念が事業の根幹を支える

ここまでの新経営方針についての話は、主に事業の「ハード」の部分についてでした。つまり、数字で表すことのできる部分を経営者と後継者の対話の中で検討し、会社の今後について考えていくということが中心でした。

 

しかし、重要なのはそれだけではありません。つまり数字では表せない「ソフト」の部分についても同様に検討しなければならないのです。そこで次に、数字では表せない部分について、どう考えて引き継いでいくのかを説明したいと思います。

 

ソフトの部分は表に出てこないことが多く、財務諸表には表れてこない見えにくい経営資源(知的資産)と言い換えることができます。なぜなら表立って出てこない部分にもかかわらず、この知的資産こそが、会社の強みとなって、事業の根幹を支えているからです。

 

[図表]知的資産と知的財産の関係性イメージ

出典:中小企業のための知的資産経営マニュアル
出典:中小企業のための知的資産経営マニュアル

 

新経営方針を決めていく段階では、この知的資産のうちのひとつである経営理念について明らかにしておきましょう。

 

経営理念には3つの内容が含まれています。

 

①ミッション(使命感)――業務を通して社会に貢献する

②ビジョン――こうありたいという願望・夢

③価値観――会社経営で大切なこと、大事にしていること

 

また、よい経営理念には次のような4つの効能があります。

 

①求心力がある

②社員に誇りと自信を持たせる力がある

③株主や取引先から信頼を獲得する力がある

④優れた人材を集めることができる

 

このように、事業に取り組む上で根底に流れるものこそが経営理念といえます。つまり、事業承継を行う際にはこの段階でそれをしっかりとまとめ、後継者に伝えなければなりません。

後継者が経営方針を考えるヒントにもなる経営理念

では、現経営者の経営理念はどういったものでしょうか。ここで経営理念を明文化してみましょう。

 

信念やノウハウというものは、個人の内部に秘められていることが多いものです。また、現在、事業承継の可能性を感じるようになってきた経営者世代の特徴は、多くを語らず自らの業績やノウハウを積極的に表に出したがらない傾向が強いように考えられます。

 

しかしながら、事業承継という重要な機会にあたっては経営理念を確実に伝承することが非常に大切になってきます。つまり、それをより正確に後継者へ伝えるためには、しっかりと明文化すべきなのです。

 

事業承継が完全に達成され、現経営者が会社から離れるときは必ずやってきます。その後に発生する問題解決のため、後継者が振り返って参考にすることもあることでしょう。そのためにも、経営理念は現経営者の脳裏に感覚的なものとして秘めておくのではなく、この機会にアウトプットしてまとめておきましょう。

 

実はその行為は単に後継者のためというだけでなく、事業承継に取り組む上で経営者自身にも必ず有益となります。経営理念を振り返り、まとめておく作業は、自分がどうやって事業と向き合ってきたのかを振り返っていくことにもつながるのです。そこから、新しい経営方針や、行動指針を後継者とともに考えるヒントが浮かび上がるはずです。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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