「お金はもう渡せない」…翌月から鳴らなくなった電話
転機になったのは、理恵さんから30万円を求められたことでした。
「下の子の歯の矯正を始めたいの。お母さんの貯金から出してもらえない?」
真由美さんは、治療の必要性や総額を尋ねました。しかし、理恵さんは詳しく説明せず、「孫のためなのに」と不機嫌になります。
「これまで渡したお金もあるし、これからは自分たちで払ってほしい。お金はもう渡せない」
真由美さんが初めてはっきり断ると、電話の向こうはしばらく無言になりました。
「分かった。もう頼まない」
その週末、理恵さん一家は来ませんでした。翌週も、その次の週も連絡はありません。
真由美さんから「遊びに来ない?」とメッセージを送ると、理恵さんは「予定がある」とだけ返信しました。
約2ヵ月後、偶然電話に出た上の孫が言いました。
「ママが、ばぁばのところはもう行かないって。ばぁば、もう行かないね」
孫は聞かされたことをそのまま話したのでしょう。それでも真由美さんは、返事ができませんでした。
「孫に会いたくてお金を出していたつもりはありません。でも、断った途端に誰も来なくなって、結果的には同じことだったのかもしれません」
寂しさに耐えられず、30万円を振り込もうと考えたこともあります。しかし、それで再び訪ねてきたとしても、「会いに来た」のか「援助を受けに来た」のか分からなくなると思い、思いとどまりました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は2025年に男性18.3%、女性25.4%と推計されています。家族が近くにいても交流が少なければ、孤立感を抱える可能性があります。
真由美さんは、地域包括支援センターが開く高齢者向けの交流会を紹介され、月2回参加するようになりました。地域包括支援センターでは、高齢者の生活に関する総合相談や権利擁護などを行っています。
今でも、孫の誕生日にはカードを送ります。ただし、現金は同封しません。理恵さんから返信はなく、以前のようなにぎやかな週末は戻っていません。
それでも真由美さんは、孫に会うために預金を取り崩す生活には戻らないと決めています。
「静かになりましたよ。日曜日になると、今でもインターホンが鳴る気がします。でも、お金を渡さなければ続かない関係を、老後の支えだと思うことはできません」
家族への援助は、大切な支えになる一方で、その境界線が曖昧になると、関係そのものに影響を及ぼすこともあります。だからこそ、無理のない範囲で支え合える関係を築くことが、長く家族と向き合うためには欠かせないのかもしれません。
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