「節約のつもりだった」…娘が気づいた父の変化
由佳さんが異変を感じたのは、健一さんのズボンが以前より緩くなっていたことでした。
体重を尋ねると、半年で5キロほど減ったといいます。朝は食パン、昼はうどん、夜は豆腐や総菜で済ませる日が多く、肉や魚を食べない日も続いていました。
「おなかがいっぱいになれば、それでいいと思っていた。節約のつもりだったんです」
厚生労働省の「高齢者の低栄養予防」では、筋肉量を維持するため、肉、魚、乳製品、大豆製品など、たんぱく質を含む食品を毎食バランスよく取ることが重要だとしています。高齢期の過度な食事制限は、低栄養や身体機能低下につながるおそれがあります。
由佳さんは、毎月食料品を送ると申し出ました。しかし、健一さんは「自分の年金で暮らしたい」と受け入れません。
そこで二人は、健一さんの家計を一緒に確認することにしました。
総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯の可処分所得は月11万8,465円、消費支出は14万8,445円。年金額や住居費には個人差がありますが、平均でも収入だけで支出を賄いきれず、資産を取り崩す構造が示されています。
健一さんの場合、使っていない固定電話や保険の特約、長年契約したままの有料サービスが見つかりました。それらを整理すると、月に約8,000円を減らせることが分かります。
一方、食費はこれ以上削らないと決めました。由佳さんと外食するのではなく、月に一度、一緒にスーパーへ行き、その日に食べたい魚を選ぶことにしたのです。
最初の日、健一さんが手に取ったのは、妻が好んでいたカツオの刺身でした。
「高くないか」と何度も値札を確認しましたが、由佳さんに促され、ようやく買い物かごへ入れました。
「毎週でなくてもいいんです。ただ、食べたいものを全部諦める生活が、あと何年も続くと思うと寂しかった」
健一さんは、今も家計簿をつけ、無駄な支出を避けています。ただし、食事まで我慢して預金残高だけを守ることはやめました。
物価高のなかで節約が必要な場面はあります。しかし、数字上の家計を維持できても、健康や楽しみを失ってしまえば、穏やかな老後とはいえません。健一さんが見直したのは食費だけではなく、残されたお金を何のために使うのかという考え方でした。
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