(※写真はイメージです/PIXTA)

老後のために蓄えたお金であっても、いざ使う段階になると、「子どもに残したい」「何歳まで生きるか分からない」と考え、取り崩せない人は少なくありません。しかし、支出を抑えることだけを優先した結果、健康なうちにできたことまで先送りしてしまう場合があります。老後資金は、残す金額だけでなく、いつ、何に使うかも考える必要があります。

入院をきっかけに初めて聞いた子どもたちの本音

夫婦の考えが変わったのは、博之さんが自宅で倒れ、救急搬送されたことがきっかけでした。

 

幸い大きな病気ではなく、脱水症状による一時的な体調不良でした。ただ、医師からは、暑さを我慢せず冷房を使うよう注意されます。

 

見舞いに来た長男は、事情を聞いて声を強めました。

 

「電気代を惜しんで倒れたら意味がないだろう。お金を残してもらうために、無理してほしいなんて思ってないよ」

 

長女も、援助用として確保している200万円について、初めて知ったといいます。

 

「私は自分たちで生活できているよ。そのお金で家を直したり、二人で旅行したりしてほしい」

 

子どもに残すことが親の役目だと思っていた夫婦にとって、予想外の反応でした。

 

退院後、家族で話し合い、夫婦は今後10年間に使うお金を具体的に決めました。預貯金3,900万円のうち、2,000万円は医療や介護、将来の住み替えに備えて残します。そのうえで、500万円を自宅の修繕、300万円を旅行や趣味に使う枠として分けました。

 

総務省『家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円である一方、消費支出は26万3,979円。平均では毎月の支出が可処分所得を上回っており、一定の資産取り崩しを伴う老後生活は特別なものではありません。

 

夫婦はまず、浴室と脱衣所の断熱工事を行い、給湯器とエアコンも交換しました。その年の秋には、結婚40周年を記念して北海道を訪れています。

 

旅行先で恵子さんが「こんなに使ってしまって大丈夫?」と尋ねると、博之さんは少し考えてから答えました。

 

「子どもに残すことばかり考えて、自分たちの時間を残すのを忘れていたな」

 

夫婦は、子どもに財産を残す考えを捨てたわけではありません。ただ、子どものために自分たちの暮らしを削り続けることはやめました。

 

残すお金と、今の生活を守るために使うお金を分けることで、夫婦はようやく自分たちのための老後を始めたのです。

 

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