「私が倒れたら、この子はどうなるの」母が決めた同居の期限
春子さんが限界を感じたのは、風邪で3日ほど寝込んだときでした。
熱があっても、和也さんは自分の食事を作ろうとしません。「何か食べるものはある?」と部屋の外から尋ねられ、春子さんはふらつきながら台所へ向かいました。
その夜、布団の中で考えたのは、自分が動けなくなったあとのことです。
「私が倒れたら、あの子は誰に頼るんだろう。このまま面倒を見続けることが、本当に和也のためなのか分からなくなりました」
体調が戻ったあと、春子さんは和也さんと向き合いました。
「あなたを追い出したいわけじゃない。でも、今の暮らしをずっと続けることはできない。半年後までに、ここを出る準備をしてほしい」
和也さんは「親なのに冷たい」と声を荒らげました。
春子さんも涙を流しました。それでも今回は、言葉を引っ込めませんでした。生活費を入れられないことよりも、家事も就職活動も母親任せになりつつある状態が、このまま固定することを恐れたのです。
翌週、春子さんは自治体の自立相談支援機関へ相談しました。生活困窮者自立支援制度では、仕事や住まい、家計などの困りごとを整理し、必要に応じて就労支援や家計改善支援につなぐ仕組みがあります。
和也さんも相談員との面談に参加。以前と同じ職種や収入だけにこだわらず、経験を生かせる契約社員や短時間勤務も含めて探すことになりました。
3ヵ月後、和也さんは物流会社の事務職に就きます。収入は以前より下がりましたが、生活リズムは少しずつ戻りました。さらに2か月後、実家から電車で数駅離れた賃貸住宅へ転居します。
引っ越しの日、和也さんは玄関で言いました。
「母さんに追い出されたと思っていた。でも、あのまま何も言われなかったら、ずっと部屋から出られなかったかもしれない」
今も週に一度は一緒に夕食をとっています。同居を終えたことで、親子の縁が切れたわけではありません。春子さんが手放したのは息子ではなく、息子の暮らしまで背負い続ける生活でした。
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