日本企業のCVCとして、世界屈指のイノベーション中心地・シリコンバレーの地を踏んだ著者は、自身がシリコンバレーで生み出した成果について、すべて「ある戦略」の徹底によるものであると語ります。本記事では杉野Scott祐介氏による書籍『アクションファースト シリコンバレーで成果を出す日本企業CVC実践論』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、ヤマハの現地法人CEOが、アクションファーストの姿勢を軸に、海外CVC活動を成功に導くためのマインドセットや組織のあり方について、自身の経験をもとに解説します。
アクションファーストで「成功」を再現性あるものに
本書で紹介してきたYMIの取り組みは、決して特別な成功事例ではない。外部からは、人脈や偶然に恵まれた結果のように見えるかもしれないが、その実態は明確な思考プロセスと行動の積み重ねによって生まれた、再現可能な「型」として整理できるものである。
YMIが一貫して意識してきたのは、短期的な成果で信頼を築き、それを長期的な事業成長につなげていく戦略だ。短期成果と長期成長は相反するものではない。むしろ、この2つを意図的に結びつけることで、CVCは本来の機能を十分に発揮する。
YMIが最初に注力したのは、「既存顧客×既存商材」の領域である。TuneForte やDataFalcon、SimScale といった協業事例はいずれも、既存の事業構造を大きく変革するものではない。しかし、現場が抱える課題に正面から向き合い、コスト削減や業務効率化といった明確な成果を着実に生み出してきた。ここで重視したのは、再現性のある短期成果を積み上げることだった。
こうした協業を通じて短期的な成果を重ねるなかで、本社からの評価と信頼も確実なものとなっていった。「YMIは構想だけで終わらせない」「スタートアップとの協業を、実際の成果に変えられる」。そうした認識が、社内に少しずつ蓄積されていったのである。
このプロセスを成立させるうえで欠かせなかったのが、社内向けコミュニケーションだ。単なる進捗報告や調整に終始するのではなく、CVC拠点の活動を正しく理解してもらい、味方を増やすための取り組みを継続してきた。協業の狙いや成果、YMIが目指す方向性を繰り返し伝える。その積み重ねによって、YMIの活動を「自分事」として受け止める仲間が社内に増えていった。
こうした一連の活動の根底にあったのが、「アクションファースト」の姿勢である。完璧な戦略や十分な合意形成を待つのではなく、まず動く。小さく試し、成果を出し、その事実で語る。一見すると偶然のように映る成功の正体は、アクションを先におき続けた結果にほかならない。だからこそ、この成功は十分に再現可能なのである。
Yamaha Music Innovations
President&CEO
1986年生まれ。2008年、早稲田大学国際教養学部卒業後、ヤマハ株式会社に入社。半導体B to B営業に従事し、AppleやGoogleなど世界的IT企業との取引を担当。白黒が明確な大型案件を数多く手掛け、20億円規模の売上獲得にも成功。その後、神戸大学MBAを修了し、30歳で異例のスピード昇進を果たす。2017年より本社経営企画部にて中期経営計画策定、ガバナンス強化、取締役会運営を担当。2020年からは欧州地域の統括拠点であるヤマハ・ミュージック・ヨーロッパ社に赴任し、欧州地域管理責任者として現地CEOとともに企業戦略・組織改革・財務課題の解決に取り組み、成果を上げた。
2024年、ヤマハのシリコンバレー拠点「Yamaha Music Innovations」President&CEOに就任。スタートアップとの協業・投資・M&Aを推進し、AIカメラ(TuneForte)、アフリカ市場開拓(Audiomack)、特許分析効率化(DataFalcon)など複数のプロジェクトを短期間で実現。2025年には法人化と5000万ドル規模の自社ファンド設立を主導し、世界の音楽・音響分野に新たな価値を創出している。
2026年1月、「Billboard 2026 Finance 50 list(業界の有力な投資家ランキング)」に選出。「アクションファースト」を信条に、現場でともに汗をかく姿勢でスタートアップと信頼を築き、短期成果と長期戦略を両立させる日本企業CVCの新しい成功モデルを体現している。
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連載GGO>記事>連載>アクションファースト シリコンバレーで成果を出す日本企業CVC実践論