シリコンバレーには世界最先端の技術やアイデアが集まり、多くの企業が新たな事業機会を求めて進出しています。しかし、その刺激的な環境は、ときに企業の判断を誤らせることもあります。本記事では杉野Scott祐介氏による書籍『アクションファースト シリコンバレーで成果を出す日本企業CVC実践論』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集し、ヤマハの現地法人CEOが、自社の強みを見つめ直す重要性と、シリコンバレーで成果を出すために必要な戦略について、自身の経験をもとに解説します。
「自社の強みは何か」アセットを分析し、CVC戦略を練り直す
シリコンバレー拠点開設のわずか2週間前に現地入りした私が、着任早々取りかかったのは、「数撃ちゃ当たる」戦略の練り直しだった。この街では、日本企業は「売り込む側」なのだ。
私たちがスタートアップに求めるのではなく、スタートアップに「ヤマハと組む価値」を感じてもらえなければ何も始まらない。では、ヤマハは何を提供できるのか。どんなアセットが武器になるのか。柴瀬とともにオフィスに缶詰になり、議論を重ねる日々が始まった。
私は2008年にヤマハへ入社し、半導体製品のB to B営業に携わったあと、経営企画部を経てヤマハ・ミュージック・ヨーロッパ社で欧州地域の管理責任者を務めてきた。
気づけば入社から16年が過ぎていたが、ヤマハという会社について私が理解していたのは「総合楽器メーカーとしてシェア世界No1」という極めてシンプルな事実だけだった。
そこから因数分解を始めて、「グローバルに拠点を展開している」「音に関する技術的なノウハウがある」「世界中に工場を持つ」など、頭に浮かぶ要素をホワイトボードに書き出していった。
シリコンバレーにいるというのに仕事で英語を使うこともなく、肝心のスタートアップにも会えず、自社のことばかり考えなければならないのは、なんとも皮肉な話だった。しかし、強みを明確にできなければ、スタートラインにすら立てないのだ。
議論を経て、最終的にたどり着いたヤマハのアセットは、世界中に約800万人いるヤマハ会員データだった。スタートアップに対して、「ヤマハと協業すれば、これだけの会員にあなたのサービスを届けることができます」と具体的な提案ができる。
さらに、グローバルな販路や、音に関する技術・製品群も組み合わせれば、スタートアップにとって魅力的な勝ち筋の提案になる。
こうして自社アセットを明確に言語化したことで、スタートアップに選ばれるためのヤマハの提供価値を定義する土台が整い始めた。
Yamaha Music Innovations
President&CEO
1986年生まれ。2008年、早稲田大学国際教養学部卒業後、ヤマハ株式会社に入社。半導体B to B営業に従事し、AppleやGoogleなど世界的IT企業との取引を担当。白黒が明確な大型案件を数多く手掛け、20億円規模の売上獲得にも成功。その後、神戸大学MBAを修了し、30歳で異例のスピード昇進を果たす。2017年より本社経営企画部にて中期経営計画策定、ガバナンス強化、取締役会運営を担当。2020年からは欧州地域の統括拠点であるヤマハ・ミュージック・ヨーロッパ社に赴任し、欧州地域管理責任者として現地CEOとともに企業戦略・組織改革・財務課題の解決に取り組み、成果を上げた。
2024年、ヤマハのシリコンバレー拠点「Yamaha Music Innovations」President&CEOに就任。スタートアップとの協業・投資・M&Aを推進し、AIカメラ(TuneForte)、アフリカ市場開拓(Audiomack)、特許分析効率化(DataFalcon)など複数のプロジェクトを短期間で実現。2025年には法人化と5000万ドル規模の自社ファンド設立を主導し、世界の音楽・音響分野に新たな価値を創出している。
2026年1月、「Billboard 2026 Finance 50 list(業界の有力な投資家ランキング)」に選出。「アクションファースト」を信条に、現場でともに汗をかく姿勢でスタートアップと信頼を築き、短期成果と長期戦略を両立させる日本企業CVCの新しい成功モデルを体現している。
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連載GGO>記事>連載>アクションファースト シリコンバレーで成果を出す日本企業CVC実践論