活動の価値を理解してもらう「社内向けコミュニケーション」
今でこそ本社から多大な協力を得られているが、シリコンバレーで活動を開始した当初は、その関係性づくりに苦心したものだった。私たちの活動が本社に十分に理解されていないと痛感したのは、2024年8月、本社の課題を洗い出す過程でのことだ。
当時、私は各事業部の役員・事業部長といった経営層に対し、彼らが日頃感じている課題をExcelに一覧化して提出してほしいと呼びかけた。ところが、送られてきたExcelに書き込まれていたのは、いずれも抽象度の高い課題ばかりだったのだ。
スタートアップとのマッチングを成功させるには、現場で働く社員が日々直面している、より具体的な課題が不可欠である。しかし、冷静になって考えてみると、現場の人たちはYMIがシリコンバレーで何をしているかを知るすべがない。YMIに協力をしたくないわけではなく、「何のために」「どのレベル感で」課題を出せばいいかが分からなかったのだ。そこで私は、YMIの活動そのものを現場の人たちにも知ってもらう必要があると考え、社内向けコミュニケーションに本腰を入れることにした。
現場社員に向けて初めて本格的な「社内営業」を試みたのが、2024年10月に開催された社内イベントである。ヤマハでは年に1度、約3000人の全社員が一堂に会する全社イベント「技術交流会」が開催されている。私はこの場を絶好の機会ととらえ、1コマを使ってYMIの活動を紹介したのだ。
ただし、そこで語ったのは「シリコンバレーの最新AIトレンド」のようなキラキラした最先端技術の話ではない。むしろその逆だ。私たちの仕事は、華やかさとはほど遠い。
「日本企業はシリコンバレーでは嫌われている」「多くの人が想像するようなキラキラしたテック企業とは無縁の雰囲気で働いている」「それでも先人たちが築いてきたヤマハのブランド力に助けられている」といった、本社が抱きがちな海外駐在のイメージとは正反対の、泥臭い現実をあえて率直に語った。
同時に、YMIが日本新記録ともいえるスピードで協業件数を積み上げていること、すでに知財部門や生産部門では具体的なコスト削減成果が出ていることも紹介した。そして最後に、「YMIは一歩踏み出すための装置になる。次はあなたの部門で挑戦してほしい」と呼びかけた。
このプレゼンテーションはリモート参加も含め約960人が視聴し、社内で大きな反響を呼んだ。イベント後のアンケートには、「元気が出ました。私も新しいことに挑戦したい」「応援しています。うちの部門の課題もぜひ相談したい」といった声が寄せられ、YMIへの関心と理解、そして協力姿勢が確実に高まったことを実感した。
社内コミュニケーションにおいて大切なのは、本社の社員にCVC活動を「自分事」としてとらえてもらうことだ。こちらから一方的に情報を発信するだけでなく、登壇してもらう、イベントに参加してもらう、成果を一緒に語ってもらう。そうした関わりを通じて、本社の人間にYMIの当事者になってもらうのである。
シリコンバレーでの挑戦は、一人では決して成し遂げられない。仲間を増やす仕組みを作ることこそが、海外CVC活動にとって最も効果的な投資なのだ。
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