「定年まで待っていた」夫が明かした35年間への不満
話を重ねるうち、修一さんは少しずつ本音を話し始めました。
夫婦仲が決定的に悪かったわけではありません。
しかし、子どもが独立してからも会話は必要事項ばかり。休日に一緒に出かけることもほとんどなく、修一さんは「夫婦というより同居人のようだ」と感じていたといいます。
「俺が帰っても、夕飯を出して、それで終わりだっただろ」
雅子さんは思わず言い返しました。
「あなたが帰ってくるのはいつも遅かったでしょう。私だって話しかけても、疲れたって言われてきたのよ」
二人とも、自分なりに家庭を守ってきたつもりでした。
しかし、修一さんは「仕事を辞めてから今の生活を続けたくない」と考え、雅子さんは「仕事を辞めればようやく夫婦の時間が始まる」と考えていたのです。同じ35年間を過ごしながら、退職後に思い描いていた生活は正反対でした。
さらに雅子さんが現実に引き戻されたのは、退職金の話でした。
修一さんは「退職金は自分が働いて得たものだから、自分の老後に使いたい」と口にしました。
しかし財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した財産で、土地や建物、預金、株式などが含まれます。一方の名義であっても、実質的に夫婦の協力で形成された財産であれば対象となり得ます。厚生年金については、財産分与とは別に年金分割の制度があります。
雅子さんはすぐに離婚届へ署名することはせず、まず夫婦の預貯金や保険、退職金などを整理することにしました。
「離婚したくないというより、何も知らないまま『はい』とは言えませんでした」
修一さんも、離婚すれば退職金3,000万円をそのまま自由にできるわけではないことを知り、当初より慎重になりました。
現在、二人はまだ離婚していません。すぐに関係を修復できたわけでもありませんが、退職後にどこで暮らしたいのか、いくら必要なのか、これまでの生活をどう考えているのかを初めて具体的に話しています。
長い婚姻生活は、それだけで老後も同じ方向を向いていることを保証するものではありません。
退職金や年金の準備だけでなく、退職後に誰と、どんな生活を送りたいのか。定年が近づく前に夫婦で言葉にしておくことが、思わぬすれ違いを防ぐために必要なのかもしれません。
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