「減らすのが怖い」父に初めて明かしたFIRE後の本音
ある晩、裕樹さんが実家で酒を飲みながら、ぽつりと言いました。
「6,800万円あれば余裕だと思ってたんだけどな」
退職後、株価が大きく下がった時期には、資産残高が一時的に数百万円減りました。長期運用なら値動きがあることは理解していました。それでも給与が毎月振り込まれていたころとは、感じ方がまったく違ったといいます。
「会社にいたころは、今月使っても来月給料が入る。でも今は、旅行で20万円使えば、本当に20万円減る。数字ばかり見るようになった」
友人との付き合いにも変化がありました。会社員の友人たちは平日に働いており、休日には家族との予定があります。裕樹さんだけ時間があっても、会える相手がいるとは限りません。
「自由になったら、もっと旅行したり趣味をやったりすると思ってた。でも、お金を使うと資産が減るし、一人でやっても意外と楽しくないんだよね」
正彦さんはそこで初めて、息子がFIREを後悔しているのか尋ねました。裕樹さんは首を振りました。
「会社を辞めたことは後悔してない。ただ、『一生働かなくていい』って考えたのが違ったのかもしれない」
裕樹さんは週に2~3日、自宅でできるIT関連の業務を知人から請け負い始めました。月によって収入は変わりますが、生活費の一部を賄える程度にはなっています。
「少しでも収入があると、1万円使う感覚が全然違うんです。それに、誰かに頼まれて仕事をするのも悪くないと思えるようになりました」
FIREには明確な正解があるわけではありません。資産額だけでなく、年間支出や運用リスク、社会保険、そして自由になった時間をどう過ごすかまで考える必要があります。
会社を辞めることがゴールではなく、その後の何十年をどのように暮らすのか。裕樹さんは会社を辞めたことで、自分に合った働き方とお金の使い方を考え直すきっかけになったようです。
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