「あと何年待てばいい?」夫婦で初めてぶつかった移住への思い
その夜から、夫婦の間でも意見が分かれるようになりました。浩司さんは、移住をいったん延期すべきだと考えました。
「母も88歳だし、今ここを離れるのはやっぱり無理なんじゃないか」
由美さんは納得できませんでした。
「じゃあ、あと何年待てばいいの?」
責めるような言い方ではありませんでしたが、浩司さんは言葉に詰まりました。
由美さんも、澄子さんを心配していないわけではありません。しかし、夫婦は5年間かけて移住の準備を進めてきました。由美さん自身も、退職後の生活を楽しみにしていたのです。
「お義母さんが元気なうちは待つ、となったら、いつになるか分からないでしょう。そのころ私たちも70代になっているかもしれない」
そこで浩司さんは妹にも相談しました。
妹も母の様子を見ることはできますが、仕事があり、全面的に任せられる状況ではありませんでした。家族で話し合った結果、まず澄子さんの生活で何が不安なのかを整理することにしました。
地域包括支援センターにも相談し、見守りサービスや生活支援について情報を集めました。
厚生労働省の「介護予防・日常生活支援総合事業」では、市町村が地域の実情に応じ、訪問型・通所型サービスや生活支援などを実施しています。介護認定を受ける前の段階でも、地域包括支援センターなどに生活上の不安を相談することができます。
最終的に夫婦は、予定していたマンションの購入を見送りました。ただし「移住そのものを諦める」とは決めたわけではありません。
まず2年間は現在の家で暮らし、その間に澄子さんの見守り体制を整える。半年ごとに家族で状況を確認し、移住できる時期を改めて考えることにしたのです。
「母に言われたから全部やめる、では妻も納得できない。かといって、今すぐ遠くへ行くのも自分は心配でした」
自分たちの老後を考える時期と、高齢になった親を支える時期は重なることがあります。移住や住み替えを考える際には、資金や住環境だけでなく、親の生活を誰がどのように支えるのかまで含めて家族で話し合っておくことも必要です。
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