前回は、ギリシャ危機によって統一経済圏として動き始めたユーロについて取り上げました。今回も、ギリシャ危機でドイツが見せた動きなどを紹介します。

金融支援の条件として緊縮政策に合意したギリシャ

二〇一五年の第二次危機は、大型借金を抱えるギリシャのポピュリスト政権と、金貸し側のEU債権者との果たし合いです。借金返済を猶予する条件として、EUはギリシャに放漫財政を抑制する厳しい緊縮政策を求めましたが、これを拒否するポピュリスト政党が台頭しました。一五年一月の総選挙でポピュリスト政党シリザが政権を獲得。シリザ(急進左派連合)を率いる若い社会主義者、チプラスが首相になりました。

 

総額三〇〇〇億ユーロ(三五兆円くらい)の借金返済延期の条件をめぐって、債権者側のEU委員会、ECB、国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)の三者体制、いわゆるトロイカとの激しい交渉になりました。IMFの代表は元仏財務相のラガルド専務理事です。ここでIMFが登場するのは、IMFが世界銀行的な役割を果たしていて、ギリシャの借金の一部を負担しているためです。

 

ギリシャを代表したのは、ユーロを離脱して借金を踏み倒すことも辞さないという、最強硬のヴァルファキス財務相です。一方、ドイツ側もこういう荒っぽい場面は妥協知らずのショイブレ財務相が登場します。ショイブレはかつて暴漢に襲われて大けがをし、車いす姿で頑張っています。

 

双方の最強硬の財務相の果たし合いになりましたが、ギリシャに勝ち目はありませんでした。チプラスはあまりにも過激なヴァルファキスを引っ込めて交代させてしまいました。最後は七月一三日、一七時間に及ぶ徹夜の交渉でギリシャは屈服し、放漫財政の元凶である国営企業の民営化や年金カットなど、構造改革を中心とする緊縮政策を受け入れました。ギリシャはかわりに八六〇億ユーロ(十一兆円超え)の融資を得て、最悪のデフォルトという事態を免れました。

 

第一次危機ではユーロの欠陥が焦点になりましたが、第二次危機はユーロ問題というよりギリシャの構造改革が問題だったと言うことができます。五〇歳代の定年で、最終給与の九五%の年金といった話が伝わっていますが、国営企業の公務員労働貴族の給与、年金をまかなう、べらぼうな放漫財政にユーロ諸国の同情は集まりませんでした。

 

経済危機で苦しめられるのはいつも、特権とは縁遠い貧しい民衆です。放漫財政の緊縮に加えて、富裕層の脱税やヤミ経済を締め上げ、緊縮のしわ寄せが貧しい弱者に及ばないようにかじ取りをするのが、国民的な人気のあるチプラスに課せられた大きな仕事です。

ユーロ圏経済の中核として力を見せたドイツ

第二次危機で、はっきり見えたのは、前の危機で築かれた防壁によって固められ、強くなったユーロの存在と、そのユーロによって強くなったドイツ経済の姿でした。ドイツは最後にギリシャに対して、嫌ならユーロをしばらく離脱しなさいという最後通牒を突きつけました。これは事実上の追放です。EUは設立の時から、すべての加盟国対等の統合という理念を掲げてきました。これまでのEUならギリシャのわがままをなんとか包み込んだ、ごまかしの妥協による解決が模索されたことでしょう。しかし今回は違いました。離脱が突きつけられたのです。

 

第一次危機ではあわてぎみで、腰が引けていたドイツが、見違えるほどの強気を見せました。どこからこの違いが出てきたのでしょうか。ユーロ圏経済が、国家の寄せ集め経済から脱皮して、統一経済圏として動き始めていること、ドイツがその中核にいることを自覚し始めた結果であると思われます。これはドイツの帝国化ということとも異なります。

 

一つの国のなかで、地方自治体が滅茶苦茶な赤字をたれ流すのが許されないのと同じ理屈です。トロイカとその背後にいるドイツは、ギリシャに対して、ユーロ経済圏にとどまりたいのであれば、加盟国としてのルールを守りなさい、構造改革しなさいと「指令」したのです。ユーロ圏の統合が進み、集合的な圧力が強くなったため、ギリシャの国家主権が抵抗する力を失ってきているのです。通貨主権はすでに国家を超えた中央の機関、ECBにプールされているのです。

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