前回は、ギリシャ危機で暗躍した「投機マネー」への対策について説明しました。今回は、投機筋の思惑に乗って「ユーロ崩壊」を騒ぎ立てた有力メディアの問題を見ていきます。

国債の暴落がイタリアの首相を退陣に追い込む

ここで一つ記憶しておかなければならないのは、こうした防壁の構築が、マーケットの強烈な圧力のおかげで成立したことです。新しい財政協定や危機の際の緊急支援基金は、過去には各国の利害の対立が絡んで、どうにもまとめることができなかった課題です。マーケットの攻撃の前に死活の危機に追い込まれて、ようやく成立したのです。

 

マーケットの猛威は政界の人事にも及びました。スキャンダルまみれのイタリアのベルルスコーニ首相は、民主主義の手続きではどうにも追放できなかったのに、マーケットの攻撃でイタリア国債が暴落すると、尻尾を巻いて退散してしまいました。ユーロ当局はウォール街の投機師に感謝状を贈らなければなりません。

南欧諸国を「pigs」と並べて危機を煽る

もう一つ、第一次危機で記憶しておかなければならないことがあります。ウォール街投機の仕組みがはっきり見えたことです。

 

メディアを巻き込んだ仕掛けは、次の順序で行われます。リーマン・ショック直後の南欧諸国が大借金を抱え込んでバタバタしているのを見て、ウォール街が目をつけます。まずアングロサクソン系メディアが動きだします。ポルトガル(Portugal)、イタリア(Italy)、ギリシャ(Greece)、スペイン(Spain)という大借金国のイニシャルを「pigs」と並べ、嘲笑を浴びせるような記事を書いて危機感を煽ります。のちにアイルランド(Ireland)も加えられ、「piigs」になりました。

 

投機が始まってpigs の国債が暴落し金利が暴騰すると、格付け会社が格下げを発表します。投機マネーの攻撃が激化し、CDS(credit default swap)というデリバティブを使って投機の利益は極大化されます。メディアはユーロ崩壊を書き立てる。そしてまた投機へという段取りです。

 

この筋書きの中心にある米英経済メディアの代表は、「The Wall Street Journal」(WSJ)と「Finacial Times」(FT)です。日本の新聞の国際経済欄は、この二紙の絶大な影響下にありますから、紙面はユーロ崩壊の一色に塗りつぶされてしまいます。

 

まだ不完全とはいえ、ユーロ・システムにウォール街の投機に対する防壁が築かれた結果でしょう。第二次ギリシャ危機ではユーロ債への投機は見られませんでした。アメリカの有力ディーラーの一人は、そのホームページで、「ユーロ投機の旨味はもうなくなった」と書きました。

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