「車を手放したら、ここでは暮らせない」と気づいた日
ある日、弘美さんが発熱し、かかりつけの医院を受診することになりました。
その日は健一さんも体調を崩しており、車を運転できません。タクシーを呼ぼうとしましたがすぐには来られず、結局近所の知人に車を出してもらいました。
帰宅後、弘美さんがぽつりと言いました。
「私たち、車がなくなったらどうするんだろうね」
バスは走っていますが、本数は多くありません。最寄りのスーパーまでも距離があり、徒歩だけで日常生活を送るのは現実的ではありませんでした。
健一さんも以前から、夜間や雨の日の運転に負担を感じるようになっていました。
「免許を返したら生活できない。でも、生活するためにずっと運転しなきゃいけないというのも怖くなりました」
夫婦は子どもたちにも相談し、再び住み替えを検討することにしました。
選んだのは、以前暮らしていた場所から数駅離れた都市部の中古マンション。駅から徒歩8分で、スーパー、病院、ドラッグストアも徒歩圏内です。
庭はなく、海も見えません。
「家庭菜園も海辺の暮らしも諦めました。でも、今の年齢で何を優先するかを考えたら、仕方ないと思えました」
内閣府『令和6年版高齢社会白書』では、住み替え先に期待することとして「買い物が便利なこと」が最も多く、次いで「医療・福祉施設が充実していること」「交通の便が良いこと」が挙げられています。また、現在より規模の大きな都市への住み替えを考える人では、交通や買い物の不便が主な理由となっています。
移住から5年。夫婦は地方の家を売却し、都市部へ戻る予定です。
地方暮らしそのものを後悔しているわけではありません。ただ、老後の住みやすさは年齢とともに変わります。自然環境や住宅の広さだけでなく、車を使えなくなったときにも買い物や通院ができるか。長く住むことを考えるなら、将来の移動手段まで含めて検討しておく必要があります。
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