妻が欲しかったのは「高価なもの」ではなかった
その日の午後、夫婦は初めて退職後の家計を詳しく確認しました。
退職金2,800万円に加え、それまでの預貯金は約1,700万円。住宅ローンは完済していましたが、築25年を超えた自宅では、数年以内に外壁や水回りの修繕も必要になりそうでした。
さらに、昭夫さんは退職後に車を買い替え、夫婦で海外旅行にも行きたいと考えていました。
「一つ一つは払える金額なんです。でも、全部やったらどうなるのかは考えていませんでした」
恵子さんに言われ、昭夫さんは退職後10年間に予定している支出を書き出しました。
車の買い替え、自宅の修繕、旅行、家電の交換。さらに、将来的には住み替えや介護にお金が必要になる可能性もあります。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、世帯主が65歳以上の二人以上世帯の貯蓄現在高の中央値は1,604万円で、4,000万円以上の貯蓄がある世帯は18.8%です。昭夫さん夫婦は比較的多くの資産を持っていましたが、まとまった資金があることと、自由に使えることは同じではありません。
「時計が欲しくないというより、あなたが一人で60万円使うより、二人で何に使うか決めたかったの」
その言葉を聞いて、昭夫さんもようやく妻が怒っていた理由が分かったといいます。
夫婦はその後、退職金のうち一定額は住宅修繕や将来の生活費として残し、それとは別に旅行や趣味に使える予算を決めました。高額な買い物をするときには、必ず事前に相談することも二人のルールになりました。
退職金は、長年働いた本人が受け取るお金である一方、退職後の夫婦の生活を支える重要な資金にもなります。まとまった金額が入ったときほど、何にいくら使い、どれだけ残すのかを夫婦で共有しておくことが、退職後のお金をめぐるすれ違いを防ぐことにつながります。
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