便利でも万能ではないAI
今回の比較で最も印象的だったのは、3つのAIすべてが、高齢者にとって重要な節税策である適格慈善分配(Qualified Charitable Distribution:QCD)について全く触れなかったことです。
QCDは、70歳半以上(制度上の要件あり)の人が、個人退職口座(IRA)から慈善団体へ直接寄付を行う制度で、寄付金を所得として計上せずに済むため、課税所得を抑えられる可能性があります。所得税だけでなく、純投資所得税(Net Investment Income Tax:NIIT)などの負担軽減につながるケースもあります。NIITは、高所得者の利子、配当、譲渡益などの投資所得に対して課される追加の税金です
しかし、このような実務上重要な節税策は、いずれのAIからも提案されませんでした。
つまり、AIは税法を広く説明することは得意でも、「その納税者にとって最適な税務判断」を提示するには、まだ限界があります。さらに、AIの助言どおりに申告して追徴課税を受けたとしても、AIが責任を負ってくれるわけではありません。最終的な責任は納税者自身にあります。
現時点では、米国でもAIだけで確定申告を完結させることは現実的ではなく、税務アドバイスも専門家を完全に代替できる水準には達していないといえるでしょう。
専門家に求められる新しい能力
もっとも、AIは税理士にとって極めて強力な支援ツールであることは間違いありません。税法の検索や制度の整理、複数の選択肢の比較などでは、人間よりも短時間で情報を提示できる場面も少なくありません。
しかし、その回答をそのまま採用するのではなく、正しいかどうかを客観的に検証し、依頼者に最適な判断へ導くことこそ、税理士の役割です。もしAIの回答を鵜呑みにして誤った助言を行えば、依頼者に損害を与え、損害賠償問題へ発展する可能性もあります。
AIの登場によって税務実務は飛躍的に便利になりました。しかし、それと同時に、AIを使いこなす知識と判断力が専門家にはこれまで以上に求められる時代になったのです。
「AIがそう回答したから」という言い訳は、税理士をはじめとする専門家には通用しません。AIの活用という点では、米国は日本より一歩先を進んでいます。しかし、その一方で、AIの限界や欠陥を検証し、そのリスクを認識する取り組みも、米国は日本よりさらに先を歩んでいるのかもしれません。
奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表
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