生活一変…会社への奉公を辞めて「密かに始めたこと」
そこから、坂井さんの生活はガラリと変わりました。
定時になったら、仕事が残っていてもパソコンをシャットダウンして帰るように。休日や深夜に、自発的に行っていた下調べや資料づくりは一切やめました。そして、その時間を“初めての転職活動”に充てるようになったのです。
陰ながら会社を支えていたベテランが動かなくなると、組織の綻びは一気に露呈します。これまで坂井さんの“先回り”によって円滑に回っていた案件はトラブルが頻発するようになり、部署全体の業務進行スピードは明らかに遅くなっていきました。
「坂井くん、どうしたの最近。早く帰るし……いや、それはいいんだけどね。まさか辞めたりしないよね?」
探るような上司の視線。しかし、坂井さんは表情一つ変えず、静かに返しました。
「いえ、特に。何もありませんよ。いつも通りやっています」
波風を立てず、穏やかに。そんな日々の中で、坂井さんは内定を勝ち取りました。
転職成功…強い引き留めも「何の意味が?」
転職に不利だと言われる40代後半にして、年収は1.3倍の560万円に。それも、基本給そのものが大幅にアップする条件でした。
基本給が上がれば、年に数回支給される賞与の掛け算のベースも上がります。退職金が減るというデメリットも、年収アップ分だけでペイできる計算でした。さらに決定打となったのは、新しい会社には70歳までの雇用延長制度が整備されていたことでした。
「ありがたい話です。転職活動をしたことがなく、自分の市場価値がわかっていなかったんですが、思ったよりも評価がよかった。運よく同業で採用募集をしていて、即戦力だと思ってもらえたこともラッキーでした」
退職の際には、強い引き留めにあったという坂井さん。「君がいなければ回らない」と、何度も言われたといいます。
「辞めるといった途端に評価し始める。あれ、何の意味があるんですかね。僕にはもう関係ないですが……。後輩や新卒には、そんな思いをしないでほしいなと思っています」

