父の会社を守るため、兄を追放した日
1ヵ月後、健二さんたちの呼びかけによって臨時株主総会が招集されました。会場で健二さんの姿を認めた健一さんは詰め寄ります。「会社を乗っ取る気か」。健二さんは「違う。父さんは兄さんを信じて社長を任せた。でも、それだけじゃなかったんだよ」と返しました。健二さんが父親の書き置きを机に置くと、会場には静けさが広がります。
出席していた古参株主の一人が口を開きました。
「私は先代からこの会社の株を預かってきた。今日は兄弟喧嘩に付き合いに来たのではない。会社の未来を決めるために来たんだ」
勝者のいない株主総会
議決権の行使結果が読み上げられます。
「議案第一号」「可決」「代表取締役健一氏、解任」
——総会の後日、健一さんは健二さんにだけ本音を漏らしました。
「俺は父さんを越えて、認められたかっただけなんだ」
兄もまた、父親の背中を追い続けていた一人だったのです。今回の結果に勝者は存在せず、残ったのは、会社だけでした。
創業者が真に遺すべき「事業承継の仕組み」
事業承継というと、多くの人は「誰を後継者にするか」に意識が向きます。もちろん、それは重要な決定ですが、創業者が本当に考えるべきなのは、その先ではないでしょうか。「後継者が間違えたとき、会社を守れる仕組みはあるか」というリスクマネジメントです。
オーナー企業では、社長の権限が大きいからこそ、一つの判断が会社の未来を大きく左右します。だからこそ、株式の持ち方や議決権の設計、遺言や生前贈与などを含めたガバナンスを、事前に整えておくことが重要です。
後継者を信じることと、会社を守る仕組みを残すことは、決して矛盾しません。むしろ、その両方があって初めて、本当の意味での事業承継といえると思います。
創業者が未来へ残すべきものは、社長という肩書きではなく、会社を守り続ける仕組みです。そして、どれほど優れた理念も、仕組みも、実行されなければ意味がありません。実行できる戦略こそが価値を持つのです。
萩原 峻大
東京財託グループ 代表
資産形成・経営アドバイザー
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