「施設へ入れる」より先に考えるべきだったこと
浩司さんは勤務中も施設の空き状況や費用を調べ続けました。しかし、信子さんの状態にどの施設が合うのか判断できません。焦りから、資料請求した民間施設の担当者に入居を勧められ、数百万円の入居一時金を払うべきか迷ったこともありました。
「母のために急がないと。でも、間違ったところを選んだらどうしよう」
眠れない日が続き、上司からも「最近、集中できていないようだけど」と声をかけられました。
転機になったのは、信子さんのかかりつけ医に相談したときです。
「まず地域包括支援センターに連絡してみてください。施設に入るかどうかも含めて相談できますよ」
地域包括支援センターは、高齢者の介護や生活に関する地域の総合相談窓口です。浩司さんが電話すると、職員が実家を訪問し、信子さんの生活状況を確認しました。そのうえで要介護認定の申請を手伝い、認定結果が出るまでの見守りや配食サービスについても一緒に検討してくれました。
認定の結果、信子さんは要介護1となりました。すぐに特別養護老人ホームへ入る状態ではなく、本人も自宅生活を強く希望していました。そこでケアマネジャーと相談し、週2回のデイサービス、訪問介護による掃除や買い物支援、服薬確認を組み合わせることになりました。
厚生労働省『令和6年介護サービス施設・事業所調査』によると、介護老人福祉施設は8,621施設、介護老人保健施設は4,214施設です。施設にはそれぞれ異なる役割があり、数が多くても、本人の状態や目的に合わなければ適切な選択にはなりません。
「施設を探すことばかり考えていたけど、今の母に必要な支えを考えるのが先だったんですね」
その後、信子さんはデイサービスを「施設みたいで嫌」と拒みましたが、見学で同年代の利用者と話し、少しずつ通うようになりました。浩司さんも、将来状態が変化した場合に備え、介護付き有料老人ホームなどの費用や入居条件を整理しています。
介護では、家族が最初から正解を知っているわけではありません。施設入居が必要な場合もありますが、「老人ホームを探す」ことだけが出発点ではありません。本人の状態を把握し、要介護認定を申請し、地域包括支援センターなどに相談する。その順序を知ることで、家族だけで抱えていた不安は、具体的な選択肢へと変わっていくのです。
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