「週末だけだから」と引き受けた孫の世話
雅子さん(仮名・72歳)は、夫を亡くしてから一人で暮らしています。公的年金と遺族年金を合わせた収入は月22万円ほど。持ち家で住宅ローンはなく、貯蓄も約1,200万円ありました。
決して困窮しているわけではありません。ただ古くなった自宅の修繕費や医療費を考え、貯蓄はできる限り残したいと考えていました。
娘は数年前に離婚し、小学3年生の息子を育てています。飲食店で働いているため、土日も出勤することが少なくありません。
「悪いんだけど、今週もお願いできる?」
そう頼まれ、雅子さんが孫を預かるようになりました。当初は月に1、2回、土曜日の日中だけでした。
「おばあちゃんの家に行きたい」
孫にそう言われると、雅子さんもうれしくなりました。昼食を作り、近所の公園へ出かけ、一緒にテレビを見る。夫を亡くして静かになった家に笑い声が響くことは、雅子さんにとっても張り合いになりました。
ところが娘の勤務時間が増えるにつれ、孫は毎週やって来るようになります。土曜日の朝から日曜日の夜まで泊まることも珍しくなくなりました。
「来週もおばあちゃんの家でいい?」
無邪気に尋ねられると、雅子さんは断れませんでした。
食事は孫の好みに合わせ、普段は買わない菓子やジュースも用意します。自宅までの送迎や外出には車を使い、ガソリン代も増えました。外食や遊びに出かければ、1回で数千円かかります。
さらに、孫が来る週末は自分の予定を入れられません。雅子さんは地域の合唱サークルに通っていましたが、土曜日の練習を休むことが増えました。
「今度の発表会、出られそう?」
仲間に聞かれても、はっきり答えられません。
「孫の予定がまだわからなくて」
そう言いながら、なぜ自分の予定がいつも後回しになるのだろうと、複雑な気持ちになりました。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の一人暮らしは増えており、65歳以上人口に占める割合は令和2年時点で男性15.0%、女性22.1%です。単身で暮らす高齢者にとって家族との交流は大切ですが、自分の生活や健康を保つ時間も欠かせません。
ある金曜日、娘からいつものように連絡が入りました。
「明日の朝、連れて行ってもいい?」
翌日は、合唱サークルの発表会でした。雅子さんはスマートフォンを握ったまま、返事ができませんでした。
「断りたいのに、断れない……」
孫に会いたくないわけではありません。ただ、毎週末を当然のように空けておく生活に、限界を感じ始めていたのです。
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