(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は、毎日温泉に浸かりながらゆったりと暮らしたい――。そんな夢をかなえようと、東京から地方の温泉地へ移住した65歳の夫婦。しかし、憧れだったはずの暮らしは、想像とは違う現実に直面します。住民は親切なのに、なぜ1年で移住を諦めることになったのでしょうか。

「参加しないと悪いかな…」見えないプレッシャー

悩みは地域行事にもありました。村内の清掃活動、防災訓練、季節ごとのイベント。欠席すると「忙しかった?」と気遣われます。たったそれだけのことなのに、「次も断ったら感じが悪いと思われるかな」と考えてしまうように。

 

どこへ行っても誰かに会う。誰にも会わず、一人で過ごせる時間がほとんどありません。「ああ、自分には、この距離感が合わないんだ」――そう感じるようになっても、本音を打ち明けられる友人は近くにはおらず、孤独感ばかりが大きくなっていきました。

 

一方、元営業職だった寿さんは持ち前の社交性で地域にもなじみ始めていました。それでも妻の変化に気づいていた寿さんは、こう声を言いました。

 

「無理して住み続けることはないよ。来てみないとわからないこともある。合わないなら東京へ帰ろう」

 

その言葉に智子さんは肩の力が抜けたといいます。何度も話し合った末、夫婦は移住から約1年で東京へ戻る決断をしました。

地方移住の前にするべき心・情報・資産の準備

「温泉は本当に最高でした。町の人も皆さん親切でした。でも、私には合わなかった。それだけなんです」

 

智子さんは、移住した町への感謝と共に、こうも語ります。

 

「東京は冷たい街だと思っていました。でも、戻ってみて気づいたんです。あの"適度な無関心"が、私にはちょうどよかったんだって」

 

とはいえ、代償は決して小さくありませんでした。購入した中古住宅は約500万円と格安でしたが、水回りや屋根の補修、断熱工事などで約700万円のリフォーム費用が発生。さらに、車社会だったため中古の軽自動車を約120万円で購入。引っ越し費用や家具・家電の買い替えなども重なり、移住に伴う支出は約1,500万円に達しました。

 

一方で、中古住宅は思うような価格では売れず、東京のマンション売却で得た資金は目減りしてしまいました。しかし、「住んでみなければ、自分たちに合うかどうかはわからなかった」と、2人に後悔はないといいます。

 

「移住者も多い」「皆さん楽しく暮らしている」という情報は安心材料にはなりますが、自分自身も同じようになじめるとは限りません。海外へ行って初めて日本の良さに気づくことがあるように、別の土地で暮らして初めて、それまで住んでいた街の良さに気づくこともあるでしょう。

 

地方移住を考えるなら、住みたい場所を探すだけでなく、「自分たちはどんな距離感の人間関係なら心地よく暮らせるのか」を見つめ直すこと。そして、事前の情報収集をしっかり行うのはもちろん、それでも合わなかった場合にやり直せるだけの資産的な余裕を持っておくことも、大切な準備なのではないでしょうか。

 

 

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