半年後、娘が見た「夢の家」の姿
香織さんが言葉を失ったのは、引っ越しから半年後に実家を訪ねたときでした。門の前には雑草が伸び、庭の隅には剪定できないままの枝が積まれていました。玄関には買い物袋がいくつも置かれ、久江さんは疲れた顔で出てきました。
「お母さん、大丈夫?」
香織さんが聞くと、久江さんは苦笑しました。
「思ったより大変なの。買い物も病院も、車がないと不便で」
正明さんは腰の痛みが続き、庭仕事を思うようにできなくなっていました。久江さんも運転は苦手で、買い物や通院は正明さん頼みです。夫婦のどちらかが運転できなくなれば、暮らしは一気に不安定になります。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の者の住居形態について、「持家(一戸建て)」が79.8%、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」が3.2%で、持家が8割以上を占めるとされています。高齢期に一戸建てで暮らす人は多い一方、年齢を重ねるほど、住まいの管理や移動手段の確保が暮らしやすさに直結します。
香織さんは、両親の家計も確認しました。固定資産税、火災保険、車検、庭木の剪定費、給湯器の交換。購入前に見込んでいなかった出費が続いていました。
「このままだと、退職金が思ったより早く減るよ」
香織さんがそう言うと、正明さんは黙り込みました。
「せっかく買った家なのに、失敗だったって言うのか」
「そうじゃない。でも、二人だけで全部抱えるのは無理があると思う」
話し合いの結果、庭の一部は防草シートを敷き、管理する範囲を減らすことにしました。剪定は年に数回、業者に頼む。車を手放す時期を見据え、病院や買い物に使える地域の移動支援も調べることにしました。将来的には、より生活動線のよい住まいへ移る選択肢も残すことにしました。
庭付き一戸建ての暮らしそのものが悪いわけではありません。土に触れ、季節を感じながら暮らす時間は、正明さん夫婦にとって今も大切なものです。ただし、高齢期の住まいは「今できること」だけでなく、「5年後、10年後も続けられるか」を考えなければなりません。
夢を託した家を、負担だけの場所にしないために。正明さん夫婦には、暮らし方を小さく整えながら、無理なく続けられる形へ変えていくことが必要だったのです。
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