激しい親族間トラブルと訴訟上の和解
事例を理解する上で欠かせないのが「みなし譲渡課税」という税制の仕組みです。 日本の所得税法では、個人が法人に対して、時価の2分の1未満という著しく低い価格で資産(株式や不動産など)を売却した場合、税金の計算上は「本来の時価で売却したもの」とみなして税金を課すというルールがあります。これは、不当に安い価格で資産を移転させることで、本来納めるべき税金を免れようとする行為を防ぐためのものです。
しかし、証券取引所で毎日価格が変動している上場企業の株式とは異なり、世の中の大多数を占める非上場企業(取引相場のない株式)には、誰が見ても明らかな客観的「時価」が存在しません。そこで国税庁は、企業の規模や保有する資産状況、類似する業種の状況などに応じて、機械的に株価を算出するための明確な計算ルール(財産評価基本通達)を定めています。これは、課税庁による評価のばらつきを防ぎ、納税者間の公平性を保つための合理的な仕組みとされています。
今回の事例の舞台は、創業者一族が全株式を保有している同族会社です。会社の支配等を巡って、創業者の娘たち(本件の審査請求人である姉妹)と、会社を代表する弟たちとが厳しく対立し、裁判にまで発展しました。
長引く争いの末、姉妹は自分たちの持つ株式を、弟側の親族が経営する関係会社へ売却するという内容で「訴訟上の和解」を成立させました。このときの売却価格は、裁判の手続きの中で双方の状況を踏まえ、担当裁判官の強い勧めもあった結果として合意された金額です。
ところが、姉妹がこの和解額をもとに税金の申告を行ったところ、税務署から申告の誤りを指摘されます。税務署は、税務上のルール(通達)に従って計算したこの会社の株価に比べて、和解で決めた売却価格は「時価の半分以下である」と主張し、みなし譲渡課税を適用して多額の追徴課税(更正処分)を行ったのです。

