(※写真はイメージです/PIXTA)

年金の繰下げ受給は、受給開始を遅らせることで年金額を増やせる制度です。長生きに備える選択肢として有効ですが、誰にとっても正解とは限りません。受け取らなかった期間の生活費、税金や社会保険料、健康状態、配偶者の年金などを含めて考えなければ、増額後に「本当に得だったのか」と感じることもあります。

増額だけでは判断できない…繰下げ受給で見落としていたこと

正夫さんが気になったのは、実際に手元へ残る金額でした。年金額が増えると、所得税や住民税、後期高齢者医療制度の保険料、介護保険料などに影響する場合があります。また、所得区分によっては医療費の自己負担割合が変わるケースもあるため、額面どおりに手取りが増えるとは限りません。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円となっており、平均で毎月約4.2万円の不足が生じています。正夫さん夫婦の年金月24万円も、支出次第では十分とは言えません。繰下げで年金額が増えても、住まいの修繕費や医療費が重なれば、貯蓄の取り崩しは続くのです。

 

さらに健康面でも考えさせられました。70歳を迎える頃、膝の痛みで長時間歩く旅行が難しくなりました。65歳から70歳までの間にもっと年金を受け取り、その分を生活や楽しみに使ってもよかったのではないか。そんな思いが頭をよぎるようになったのです。

 

もちろん、繰下げ受給が失敗だったと決めつけることはできません。今後長く生きれば、増額された年金は大きな支えになります。正夫さん自身も、「これから先の安心を買ったと思えば悪くない」と考える日もあります。ただ、65歳の時点で、税金や保険料、貯蓄の取り崩し額、健康状態まで含めて具体的に試算していなかったことは反省点でした。

 

現在、正夫さん夫婦は家計を見直し、旅行や外食の回数を調整しながら暮らしています。繰下げで増えた年金を過信せず、医療費や介護費に備えて支出を整理するようになりました。

 

年金の受け取り方に、万人に共通する正解はありません。長く働けるか、貯蓄で何年暮らせるか、健康状態はどうか、配偶者の収入はあるか。繰下げ受給を考えるなら、増額率だけでなく、待っている間の生活費と受け取り後の手取りまで確認することが大切です。

 

 

 

 

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