退職金は「ご褒美」ではなかった…夫婦が向き合った老後設計
誠一さんが最もショックを受けたのは、退職金の使い道でした。自分では、長年働いたご褒美として少しは自由に使えると思っていました。しかし由美子さんは、住宅ローンの残債、老後の生活費、医療費、家の修繕費を一覧にし、退職金の多くがそれらに消えていく可能性を示しました。
「旅行に行きたい気持ちは分かる。でも、まず生活を守らないと」
その言葉は冷たく聞こえましたが、由美子さんも夫を責めたいわけではありませんでした。家計を預かってきた立場として、数字をごまかせなくなっただけです。
厚生労働省『令和6年簡易生命表』によると、日本人の平均寿命は男性81.09年、女性87.13年です。定年後の生活は長く続きます。退職金は一時的なまとまった収入であっても、20年以上の生活を支える原資になることがあります。
誠一さん夫婦は、その日から家計を見直しました。退職金で住宅ローンを完済するか、手元資金をどれだけ残すか。再雇用で何歳まで働くか。車を維持するか、保険を見直すか。
ひとつずつ確認していくうちに、誠一さんも「定年後の生活をどう組み立てるか」が重要なのだと理解していきました。
最初は落ち込んでいた誠一さんでしたが、数週間後には少しずつ気持ちが変わりました。現実を知らないまま退職を迎えるより、2年前に気づけたことは救いでもあります。
夫婦は旅行を完全に諦めたわけではありません。退職直後の大きな出費は避け、近場の温泉や日帰り旅行から楽しむことにしました。
定年が見えてからではなく、少し早い段階で夫婦が同じ数字を見て話し合うことが大切です。残酷に見えた現実も、向き合う時期が早ければ、暮らしを立て直すきっかけになるのかもしれません。
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