業者の“空枠キープ”のせいで、住民の電気代が月32ドル上乗せ
元凶は投機的な系統接続申請だ。データセンターのデベロッパーが将来の拡大を見越し、使用するか不明な電力枠を大量確保している。大手電力会社のDominion Energyはその申請に基づき送電網を増強せざるを得ず、結果として一般家庭がそのコストを電気料金で負わされる。
米非営利団体の「憂慮する科学者同盟」の試算では、米地域送電機関PJM管内7州の一般需要家は2024年だけで44億ドル(約6600億円)をデータセンター用送電網アップグレード費用として負担していた。メリーランド州ボルチモアの住民の電気料金は月32ドル押し上げられたと報じられている。
データセンター向けの「特別料金」を創設…対応に追われる電力会社
Dominion Energy自身もこの状況に危機感を抱き、大規模需要家(100MW超)向けの新たな料金クラスの創設をバージニア州公益事業委員会に提案した。需要家に長期的な電力購入契約と系統増強への応分の負担を求めるもので、投機的申請者を経済的インセンティブでスクリーニングする設計だ。
原因者負担の原則を徹底した例が米電力会社のAEP Ohioだ。2025年7月にオハイオ州公益事業委員会の承認を得て導入された大規模需要家向け新料金体系(DCT:Data Center Tariff)には、契約電力容量の最低85%について使用の有無にかかわらず12年間の長期支払いを義務付ける「Take-or-Pay」条項が組み込まれている。
この結果、系統接続キュー(順番待ち)は30GW超から約13GWへ半減した。投機的な場所取り目的の申請が一掃されたのだ。
米国連邦政治の議題となったデータセンター問題
2026年に入り、この問題は州レベルの制度的対応の枠を超え、連邦政治の議題となった。2025年末から2026年初頭にかけて米国東部を記録的な寒波が襲い、家庭向け電気料金の大幅な上昇が報じられた。寒波による暖房需要の急増に加え、エネルギー市場の不安定化、老朽化した送電網の更新費用が重なり、データセンターの電力消費は住民の不満の象徴となった。
トランプ大統領は2026年2月の一般教書演説で「電力料金支払者保護の誓約(Ratepayer Protection Pledge:RPP)」を掲げ、データセンター事業者に自前の電源開発を求める交渉を開始したと表明。3月4日にはAmazon、Googleを含むテック大手7社の幹部をホワイトハウスに招集し、データセンター建設が一般家庭の電気料金を押し上げない旨を各社に宣言させた。
電気料金の高騰は、実際にはデータセンターだけが原因ではなく、寒波・戦争・老朽インフラの複合要因だ。だが「電力を大量消費するデータセンター」は、政治的にわかりやすい標的となった。データセンターの社会的受容性(Social License to Operate)が、連邦レベルの政策変数へと格上げされた意義は大きい。
データセンターを誘致しつつインフラコストを一般市民に押し付けない公平性の確保は、日本のワット・ビット連携においても避けて通れない課題である。
白畑 真
さくらインターネット株式会社
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