「自分もいつか」…静かな団地で考えたこれからの暮らし
ある朝、同じ棟の友人が救急車で運ばれました。数日前まで普通に挨拶をしていた人でした。後日、娘さんから「施設に入ることになりました」と聞かされたとき、佐和子さんはしばらく言葉が出ませんでした。
「私も、ある日突然ここを離れるのかしら」
そう考えるようになったのです。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円で、平均では毎月約3万円の不足が生じています。佐和子さんの年金額でも、医療費や介護費、住まいの修繕や転居費用が必要になれば、余裕があるとはいえません。
娘は遠方に住んでおり、頻繁に頼ることはできません。佐和子さんは、地域包括支援センターに相談し、見守りサービスや配食サービス、緊急通報装置について説明を受けました。すぐに介護が必要な状態ではありませんが、「元気なうちに知っておくこと」が大切だと感じたからです。
その後、佐和子さんは団地の自治会で、小さな声かけ活動を始めました。毎朝決まった時間にカーテンが開いているか、郵便物がたまっていないかを、無理のない範囲で確認する。お茶会も月1回から、短時間の集まりに変えました。
「人数は減ったけれど、なくしてしまったら本当に寂しくなるから」
団地から友人が消えていく現実は、佐和子さんにとってつらいものでした。しかし同時に、これからの暮らしを考え直すきっかけにもなりました。
老後の安心は、貯金や住まいだけでは支えきれません。誰かと話す時間、異変に気づいてくれる人、相談できる場所。そうした小さなつながりが、日々の暮らしを支えることがあります。
「寂しいけれど、私まで閉じこもっていたらいけないわね」
友人が減っていく団地で、佐和子さんは失われた時間を数えるだけでなく、残されたつながりをどう守るかを考え始めています。
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