「狭く」ではなく「暮らしやすく」…団地で始めた新しい生活
夫婦が選んだのは、駅からバスで10分ほどの団地でした。築年数は古いものの、室内はリフォームされており、2DKの間取りは夫婦二人には十分でした。近くにはスーパー、内科、薬局があり、バス停も歩いて数分の場所にあります。
戸建てを売却した資金の一部は、今後の生活費や医療費に回すことにしました。引っ越し前には大量の荷物を整理し、子どもたちに写真や思い出の品を分けました。
「こんなに物を抱えていたんだね」
恵子さんは、空になっていく部屋を見ながらそう言いました。
転居当初は、寂しさもありました。リビングは以前より狭く、庭もありません。孫が泊まりに来る部屋もありません。しかし数ヵ月がたつと、夫婦は少しずつ新しい暮らしに慣れていきました。
掃除は短時間で終わり、階段を上り下りする必要もありません。買い物は近くで済み、通院も以前より楽になりました。光熱費も下がり、家の修繕に頭を悩ませる時間も減りました。
「狭くなったはずなのに、気持ちは軽くなった気がする」
恵子さんはそう話します。
国土交通省『住生活基本計画』では、高齢者が安心して暮らせる住まいの確保や、バリアフリー化、住み替え支援などが課題として示されています。老後の住まいを考える際には、所有している家の広さや資産価値だけでなく、日々の移動、掃除、通院、買い物のしやすさまで含めて判断することが大切です。
もちろん、団地暮らしにも不便はあります。隣近所への音の配慮、収納の少なさ、古い建物ならではの寒さ。戸建て時代と比べて自由が減ったと感じる場面もあります。
それでも敏夫さん夫婦は、転居を後悔していません。
「4LDKを手放しました」
その声には寂しさもありますが、どこか安堵もありました。家族の思い出が消えるわけではありません。場所が変わっても、夫婦が積み重ねてきた時間は残ります。
老後の住まい選びで大切なのは、若い頃に手に入れた家を守り続けることだけではありません。今の体力、収入、生活動線に合った住まいへ変えていくことも、一つの前向きな選択です。
敏夫さん夫婦にとって団地への転居は、これからの生活を無理なく続けるための住み替えだったのです。
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