「臨時収入」で親孝行のつもりが…母が突きつけた“最後通告”
そんな生活を続けていたある日、健太さんに思わぬ臨時収入が入りました。繁忙期のため、会社から特別手当が支給されたのです。いつもより手取りが10万円近く増え、普段の倍以上の給料を手にした健太さんは、少し裕福になったような気分になっていました。
「たまには親孝行でもするか」
そう考えた健太さんは、両親を焼肉店に連れていくことにしました。そこは、一人当たり2万円近くする高級焼肉店です。自分を支えてくれている両親へ感謝の気持ちを表したつもりでした。
しかし、健太さんに連れられ浮かない顔で店に入った和子さんは、メニューを見てもだんまり。そして肉が運ばれ、一口食べたあと、ぽつりと言いました。
「あんたの金で食べる肉は、ちっとも美味しくない」
健太さんは耳を疑いました。(せっかく奮発して連れてきたのに、なぜそんなことを言われなければならないのか)。和子さんは、静かに続けます。
「このお金があるなら、家に入れてよ……。私たちがうれしいのはおいしいお肉じゃなくて、あなたが一人で生活できるようになることなの」
和子さんにとって、高級焼肉は「感謝の証」ではなく、的外れな自己満足にしか思えませんでした。年金生活のなか減り続ける預金に不安を隠せないなか、40歳になっても生活費を負担せず、自立の見通しも見えない息子に、和子さんは苛立ちを隠せません。
焼肉の席はやがて親子の口論へと変わり、そして和子さんは「最後通告」をしたのです。
「3ヵ月だけ待ってあげるから、そのあいだに部屋を探しなさい。それまでは家にいてもいいけど、その後は戻ってこないでちょうだい」
健太さんは言葉を失いました。これまで喧嘩になることは何度もありましたが、まさか自分が家を追い出されることになるとは夢にも思っていなかったのです。
親子同居の長期化に潜む「金銭依存」問題
成人後も親と同居すること自体に問題があるわけではありません。
たしかに子どもにとっては住宅費や生活費が節約できるほか、親にとっても生活費の軽減に繋がるなど、双方にメリットがある場合もあります。しかし、自立する意思や見通しがないまま、親の支援を当然のものとして受け続けることは問題といえます。
人間関係で傷つき、社会復帰に時間がかかることはありますし、一定期間療養が必要なこともあるでしょう。しかし少なくとも、自分が消費する食費や光熱費の一部を負担して誠意をみせるなど、自立に向けて行動する姿勢は必要です。
また、高齢の親は収入源が限られるうえ、介護費用や医療費といった将来の支出が控えています。親の老後資金を取り崩し続ければ、そのしわ寄せは最終的に子ども自身へ返ってきます。なかには、親の死後に生活が立ち行かなくなり、年金の不正受給に陥るケースもあるようです。
高価なご馳走の前に、日ごろからコツコツ親孝行を
総務省統計局の「令和2年国勢調査」によると、50歳時点で未婚の人のうち、男性の約3割、女性の約2割が親と同居しています。また、内閣府「令和7年版高齢社会白書」でも、高齢者世帯の単身化や家族構成の変化が進み、親子間の経済的依存が課題として指摘されています。
今回の事例は、単なる親子喧嘩ではありません。和子さんは、自分たちの老後以上に「親亡き後の息子の人生」を恐れていました。自立への姿勢や感謝の気持ちが見えなくなったとき、親子関係は少しずつ歪みはじめます。
高価なプレゼントやご馳走の前に、普段から親に負担をかけない努力を続けることがなによりの親孝行といえます。
小川 洋平
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