台所の奥で見つけた封筒…父が黙って残していたもの
その日、拓也さんは台所の棚を整理していると、奥から古い菓子箱を見つけました。中には、茶封筒が何通も入っていました。封筒には、父の字でこう書かれていました。
「拓也から」
「使わない」
「いざという時」
中には、現金が入っていました。拓也さんが10年間送ってきた仕送りの一部を、父はほとんど使わずに残していたのです。
「何だよ、これ……」
拓也さんは、しばらく動けませんでした。
父は、仕送りを受け取りながらも、自分の生活にはほとんど使っていませんでした。食費を切り詰め、暖房も控え、送られてきたお金を少しずつ封筒に分けて残していたのです。
正雄さんは、気まずそうに言いました。
「お前が困った時に返そうと思ってた」
拓也さんは胸が詰まりました。父にとって、仕送りはありがたいものでした。しかし同時に、息子に負担をかけているという申し訳なさを感じてもいたのです。
「使ってほしくて送ってたんだけど…」
厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯では公的年金・恩給を主な所得としている世帯が多く、家族からの援助が生活を支える場面もあります。一方で、高齢の親が子どもに迷惑をかけまいとして、支援を十分に使えないこともあります。
拓也さんはその日、父と初めて家計についてきちんと話しました。毎月の年金、食費、医療費、家の修繕費。何に足りていて、何に不安があるのか。
そのうえで、現金をただ送るのではなく、必要なものを一緒に買うことにしました。冬場の暖房費、病院へのタクシー代、壊れかけていた給湯器の交換費用。父が遠慮しなくても済む形を考えたのです。
親への仕送りは、子どもにとって愛情の形です。しかし、受け取る親にとっては、感謝と同時に遠慮や負い目が生まれることもあります。
正雄さんが台所の奥に残していた、使われなかった仕送り。それは息子を思う父の不器用な愛情が、誰にも見えない場所に積み重なっていたものだったのです。
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