(※写真はイメージです/PIXTA)

定年や早期退職は、人生の大きな節目です。長年働いてきた人ほど、「これからは夫婦で旅行をしたい」「趣味に時間を使いたい」と考えることもあります。しかし、退職後の生活は、気持ちの区切りだけで始められるものではありません。住宅ローンや教育費、親族への援助、老後資金の不足など、現役時代に先送りしてきた課題が一気に表面化することもあります。

「通帳の残高」では見えなかった、老後資金の現実

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』では、老後の生活を心配する理由として、十分な金融資産がないことや、年金・保険が十分ではないこと、物価上昇への不安などが挙げられています。

 

浩司さん夫婦も、まさにその不安の中にいました。

 

退職金は「自由に使えるお金」ではありませんでした。住宅ローンを整理し、教育ローンを返し、当面の生活費を確保し、将来の医療費や介護費に備えるためのお金だったのです。

 

浩司さんは、旅行から戻ってすぐ、家計を見直しました。車の買い替えは延期。海外旅行も白紙。退職金の一部で負債を整理し、残りは生活防衛資金として分けることにしました。

 

さらに、完全に仕事を辞める予定を変え、週3日の再就職先を探し始めました。

 

「退職したら終わり、ではなかったんです」

 

恵美さんの言葉は、確かに冷たく聞こえました。しかし、それは夫を責めるためだけの言葉ではありませんでした。長年、家計の不安を一人で抱えてきた妻の限界でもあったのです。

 

退職金は、長く働いてきたことへの大切な成果です。しかし、それは必ずしも“第二の人生を楽しむためだけのお金”ではありません。

 

これまで先送りしてきた支払いと、これから続く老後生活。その両方を支えるための資金でもあります。

 

浩司さんにとって、銀行から届いた封書は、夫婦で老後を現実的に組み直すために避けて通れなかった通知だったのです。

 

 

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