「俺だって余裕ないんだよ」…同居後に見えた息子の本音
同居から2ヵ月ほど経った日のこと。房枝さんが、通院費のために少しお金を残しておきたいと伝えると、雅也さんは不機嫌そうに言いました。
「俺だって余裕ないんだよ。面倒を見るって言っても、全部タダでできるわけじゃない」
房枝さんは、胸が冷たくなるのを感じました。「面倒を見る」という言葉を、房枝さんは生活全体を支えてくれる意味だと思っていました。
しかし雅也さんにとっては、「同居を許す」「家事を少し手伝ってもらう」程度の感覚だったのかもしれません。それから、雅也さんの言葉は少しずつ厳しくなっていきました。
「昼間は静かにして」
「電気をつけっぱなしにしないで」
「病院くらい一人で行けないの?」
房枝さんは、息子の家にいるのに、居場所がないように感じるようになりました。
雅也さんにも事情はありました。離婚後の生活費、仕事の不安定さ、自分自身の将来不安。母を助けたい気持ちはあっても、実際に介護や生活支援を担う余裕はなかったのです。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で男性18.3%、女性25.4%と推計されています。高齢の親を家族だけで支えることが難しくなる背景には、子ども世代の生活不安もあります。
房枝さんは、地域包括支援センターへ相談しました。
そこで、同居を続けるにしても、生活費の分担や通院支援、介護サービスの利用を整理する必要があると説明されました。場合によっては、低所得高齢者向けの住まいや生活保護の相談も選択肢になると聞きました。
「息子に迷惑をかけたくないと思っていました。でも、息子だけに頼るのも違ったんですね」
現在、房枝さんは一時的に親族の家に身を寄せながら、自治体の窓口で住まいと生活支援について相談を続けています。
雅也さんも、母を追い出したかったわけではありません。ただ、「面倒を見る」という言葉の重さを、十分に分かっていなかったのです。
高齢の親との同居は、安心につながることもあります。しかし、生活費、介護、家事、通院、互いのストレスが一気に表面化することもあります。
「面倒を見るよ」という言葉は、確かに優しさから出たものでした。けれど2ヵ月後に見えたのは、優しさだけでは支えきれない、親子同居の現実だったのです。
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