「あの子も大変だから」…母が隠していた“もう一つの仕送り”
異変の理由が分かったのは、通帳を確認したときでした。
美代さんの口座には、浩一さんからの仕送りが毎月入金されていました。しかし、その数日後、別の口座へまとまった金額が振り込まれていたのです。
相手は、浩一さんの弟・慎二さん(仮名・52歳)でした。
慎二さんは数年前に離婚し、非正規の仕事を転々としていました。浩一さんとは疎遠になっており、母とだけ連絡を取っていたといいます。
「母さん、これ弟に送ってるの?」
美代さんは、しばらく黙っていました。やがて、小さな声で言いました。
「あの子も大変だから」
浩一さんは言葉を失いました。
母は、自分が送ったお金の一部を、弟へ再び送金していたのです。
さらに聞くと、慎二さんからは「家賃が払えない」「携帯が止まる」「仕事が決まるまで助けてほしい」といった連絡がたびたび来ていたことが分かりました。美代さんは、自分の生活費を削りながら弟を支えていました。
「母さんを支えているつもりだったのに、実際は弟の生活を支えていたんです」
浩一さんの怒りは、弟だけに向かったわけではありません。
なぜ黙っていたのか。なぜ相談してくれなかったのか。母を責めたい気持ちと、母が弟を見捨てられなかった気持ちの間で、感情が揺れました。
浩一さんは、母と弟を交えて話し合うことにしました。
最初、慎二さんは「借りていただけだ」と言いました。しかし、返済の見通しは曖昧でした。母もまた、「かわいそうで断れなかった」と涙をこぼしました。
「家族だから助けたい。それは分かります。でも、このままでは全員が苦しくなる」
浩一さんは、仕送りの方法を変えることにしました。
現金をそのまま渡すのではなく、母の光熱費や医療費を直接支払う形にし、生活費は必要額を一緒に確認する。弟への援助については、浩一さんが直接話を聞き、必要なら福祉窓口や就労支援へつなぐ。
美代さんは最初、寂しそうな顔をしました。
「お母さんを信用してないの?」
浩一さんは首を横に振りました。
「信用してないんじゃない。母さん一人で抱え込ませたくないんだ」
親の家計は、年金額や仕送り額だけでは見えません。そこには、親自身の生活だけでなく、ほかの家族への援助や、断りきれない関係が入り込んでいることがあります。
表面上は「普通に暮らしている」ように見えても、その裏では、誰かを支えるために自分の生活を削っているケースもあります。数字だけではなく、「誰のために、どこへお金が流れているのか」まで含めて考えることが、家族の暮らしを守るうえで重要なのかもしれません。
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