なぜ婚約指輪はダイヤなのか? 商品を変えずに「売上300億円」を達成した驚きのマーケティング

なぜ婚約指輪はダイヤなのか? 商品を変えずに「売上300億円」を達成した驚きのマーケティング

広告を打っても売上が伸び悩んでいる、商品の知名度はあるはずなのに選ばれない……それは、消費者の頭の中で商品のイメージや期待値が固定化されてしまっているからかもしれません。本記事では、松本淳氏の著書『ヒット商品を生み出す!認識のからくり』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、歴史的な名プロモーションや身近なビジネスの再生劇から紐解く、莫大な開発投資をせずとも消費者の行動を劇的に変える「認識の魔力」について解説します。

なぜ婚約指輪はダイヤモンドなのか

ダイヤモンドには「永遠の絆」「変わらぬ愛」という象徴的な石言葉がつけられています。この石言葉が表すように多くの人がプロポーズの際や婚約記念の品としてダイヤモンドの指輪をプレゼントしています。リクルートが運営する結婚情報誌「ゼクシィ」が発表した「ゼクシィ結婚トレンド調査2024(全国推計値)」では、「婚約指輪といえばダイヤモンド」という人が95.2%を占めており、パール、サファイアなどほかの宝石と比べて圧倒的な支持を得ていることが分かりました。

 

婚約指輪といえばダイヤモンド――この組み合わせは、いまや社会的な共通認識として定着しています。しかし、19世紀以前には婚約指輪に使われる宝石は多様で、実はルビーやサファイアなどの色石が主流でした。ダイヤモンドは数ある宝石の一つにすぎなかったのです。

この状況を一変させたのが、1930年代に展開された広告戦略でした。1929年に始まった世界恐慌によってダイヤモンドの需要は急減し、その影響は1930年代後半になっても根強く残っていました。この状況を打開するため、デ・ビアス社は1938年に米国の広告代理店N.W. Ayerと契約し、ダイヤモンドを「永遠の絆」や「変わらぬ愛」と結びつける広告キャンペーンを開始しました。映画スターにダイヤモンドの指輪を着用させ、雑誌広告で「婚約にはダイヤモンドを」というメッセージを繰り返し発信。さらに「婚約指輪は給料1ヵ月分」という購入額の指標を打ち出しました。

 

この購入指標は戦後の日本にも持ち込まれ、1970年代後半には「婚約指輪は給料3ヵ月分」というコピーとして展開されます。ちょうど日本では高度経済成長によって所得水準が上昇し、結婚市場が拡大していた時期でもあり、華やかな広告は人々の心をつかみました。映画館で繰り返し流されたこのフレーズは、当時の記憶として今も多くの人々の心の中に残っています。

 

もっとも、こうした宣伝がただのイメージ操作で終わらなかったのは、ダイヤモンドそのものが持つ特性と物語が重なったからです。天然鉱物のなかでも最も硬く、欠けることのない性質を持つダイヤモンドは、「永遠の絆」や「変わらぬ愛」というメッセージと極めて相性が良かったといえます。単なる宣伝文句ではなく、素材の本質と象徴性が一致していたことが、このキャンペーンに説得力を与えたのです。こうして、ダイヤモンドは「婚約の象徴」として揺るぎない地位を獲得しました。

 

このように、私たちは認識によって物事を判断しています。ダイヤモンドを婚約指輪に選ぶのは、「愛の証しであり、永遠の輝きである」という物語が共有されているからにほかなりません。私たちのなかで知らず知らずのうちに定着した認識が、選択を方向づけているのです。

人は、世界をありのままに見ているようでいて、実際には自らの認識を通してものを見抜いています。それはマーケティングの世界に限らず、私たちの日常のあらゆる判断に潜む構造でもあります。

 

 

次ページ確信に変わった認識の魔力

※本連載は、松本淳氏の著書『ヒット商品を生み出す! 認識のからくり』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、解説します。

ヒット商品を生み出す! 認識のからくり

ヒット商品を生み出す! 認識のからくり

松本 淳

幻冬舎メディアコンサルティング

消費者の「認識」を変えることが “売れる”“選ばれる”商品をつくるカギ 驚き 象徴 現象 納得  4つの要素を駆使して 商品やブランドの市場価値を高める! 多くの企業が「認知度を上げれば売れる」と信じ、商品や…

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