「こんなはずじゃなかった…」〈貯蓄7,000万円・年金想定月20万円〉61歳で起業した男性。理想のセカンドライフが一転、家族は去り…ひとり弁当を食べる夜

「こんなはずじゃなかった…」〈貯蓄7,000万円・年金想定月20万円〉61歳で起業した男性。理想のセカンドライフが一転、家族は去り…ひとり弁当を食べる夜
(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の人生を、「余生」ではなく「新しい挑戦の時間」と考える人は少なくありません。退職後に起業や独立を選ぶ人もいます。長年の経験や人脈を活かし、「好きなことを仕事にしたい」と考えるのは自然な流れです。しかし、老後資金を使った挑戦には、現役時代とは違う難しさもあります。

「店をやめてほしい」…家族との距離の広がり

店を始めて3年目に入った頃、家庭内の空気は大きく変わっていました。

 

最も苦しかったのは、妻との関係です。恵子さんは、店を始めてから夫婦の会話が減ったと感じていました。

 

誠一さんは店のことで頭がいっぱいで、家でも売上や仕入れの話ばかり。赤字が続くようになると、次第に表情にも余裕がなくなっていきました。

 

ある夜、恵子さんは静かに言いました。

 

「もう、お店をやめない?」

 

しかし誠一さんは強く反発しました。

 

「ここでやめたら、全部無駄になるだろ」

 

その頃には、追加投資や運転資金で、貯蓄は大きく減っていました。娘夫婦からも心配されるようになります。

 

「老後のお金、大丈夫なの?」

 

誠一さんは苛立ちました。

 

「お前たちに迷惑はかけない」

 

ただ、本音では焦りもあったといいます。年金受給が始まっても、生活費と店の赤字補填が重なり、家計には余裕がありませんでした。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』でも、高齢期は収入を増やしにくい一方、医療費や生活費への不安を抱える人が多いことが示されています。

 

転機は、妻が別居を切り出したことでした。

 

「あなたは“夢”を見ているのかもしれない。でも私は、安心して暮らしたい」

 

恵子さんは娘の家の近くへ移りました。

 

誠一さんは、一人で店を続けています。閉店後、売れ残った弁当を店の奥で食べる夜も増えました。

 

「こんなはずじゃなかったんです。本当は、家族と楽しく歳を取るつもりだった」

 

誠一さんは、ぽつりとそう漏らしました。

 

挑戦すること自体が悪いわけではありません。ただ、老後の挑戦には、“失っても取り戻せる時間”が現役時代より少ない現実があります。

 

「好きなことをして生きたい」

 

その思いは、人生を前向きにする力にもなります。一方で、理想だけでは支えきれない現実があることを、誠一さんは、店の片隅でひとり弁当を食べながら痛感していたのです。

 

 

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