生活の苦しさから軽犯罪を繰り返す老人・・・
今回は、日本で進む少子高齢化から「リスクストーリー」を考えましょう。以下はそのストーリーです。もし、あなたが2025年に都内某所で刑事をしていたとしたら次のような尋問を老人に行っているかもしれません。
「またお前か。ここに来ちゃダメだと何度言ったらわかるんだ」
あなたがあきらめ顔で目の前の老人に聞いています。
「刑事さん、老人は誰も相手にしてくれない。年金も65歳以上じゃないともらえないし、求人も競争相手が沢山いて職に就くのはとても厳しい。毎日三食あって健康的な生活ができるのは刑務所なんだ。同じような境遇で同じ年代の友達もたくさんいるし、どうか後生です。早く連れて行ってください」
この老人は職を求めて北陸の地方都市から上京してきたところ、東京の生活に心身ともに疲れてしまい、万引きをして捕まったのです。
地方では、公共サービスが落ちる割にどんどん地方税が引き上げられていき、若者は都会に逃げ出し、企業も数少ない若者を追ってどんどん都心へ移っているという事情もあって、この老人は身寄りもないのに上京せざるをえなかったのです。
若者は仕事を求めて海外へ脱出
あなたが職場から家に帰れば、NHKのニュースで次のようなニュースを聞いていることでしょう。それは、水道管が破裂して水浸しになっているという、地方で起きている事故を放映しているニュースです。
地方では耐久年をすでに20年超えている水道管がほとんどになっているものの、それをメンテナンスする財源がないので放置しているとの報道です。
地元の人は「水道管が老朽化しているため、サビや泥が混じって、ずっと水道水が濁って飲めなくなって久しい」と困惑した顔でインタビューに答えています。それに続いて、NHKの解説番組で評論家が最近の物価高について次のようにコメントしているのもお聞きになるかもしれません。
「少子化によって、労働需給が逼迫、賃金の上昇を招き、内外労働コストの格差を一層増大させ、製造拠点の海外移転(いわゆる「産業の空洞化」)に拍車をかけ続けて久しい。移民はおろか、逆に仕事を求めて海外へ脱出する若者の数が増えているくらいだ。もちろん、人口問題と経済との関係については、人口1人当たりのGDPで論じるべきだという見解があるが、留意点が2つある」
「1つは『規模の利益』だ。総人口の減少は国内市場の縮小を意味し、企業活動や資本導入等に悪影響を及ぼす。このことに加えて、もう1つは、負債も考慮すべきだということだ。わが国の国・地方の長期債務残高は10年前の2015年はGDPの約2倍で、さらに拡大して利払いだけで精一杯だ」
「加えて、人口の減少で1人当たりの借金額は大きくなってきている。このことも若者に恐怖感と絶望を与えており、今後の増税を嫌がって海外に移住を続けている。由々しきことだ」
マイナス金利導入が分岐点に
キャスターがその解決の方法を尋ねると、評論家が答えます。
「当時の政府が採ったポイントは、①労働参加率を上昇させること、②生産性を向上させること、の2つだ。①については、一般的には、意図的に、女性および60歳以上の労働参加率を引き上げること、②については、高等教育はもちろんのこと、初等・中等教育を含む教育水準の向上、職場内あるいは職場外の能力向上等に取り組むこと。10年の安倍政権からずっとこの方針を採ってきたその結果が、高齢労働者の増加となってしまった」
キャスターが、どうして意図とは違って、高齢労働者のみ増えてしまったのか、その理由を尋ねると、評論家が続けて答えます。
「そう、旧態依然とした教育内容で生産性は全く上がらなかった。そもそも、プログラム言語や外国語の習得などを強制しても、老人には荷が重すぎたんだ。結局、単純作業の生産性が低い分野だけ働く老人が増えていった」
評論家は続けて言います。
「確かにこうした方針を掲げ始めた10年前の2015年はデフレ脱却直後だった。物価が再度下がっていく気配もあったので、マイナス金利も導入するほど物価高を誘導しようとしていた」
「しかし、その頃から東日本大震災の復興活動や2020年の東京オリンピック事業に向けて、若者の労働需給が本格的にタイト化していた」
「各種経済統計においても、建築業に加え、流通、物流、外食産業と人手不足が広がりを見せて、厚生労働省発表の有効求人倍率は年々改善し、2015年から2020年にかけては、政府の試算で延べ15万人の労働不足が見込まれていた」
「実際、人件費も急上昇していて、震災前と比較して、5年後の2016年では、鉄筋工では東北で3倍、関東で2倍、関西では1.5倍と言われている高騰ぶりとなっていった」
評論家が一服おいて言うには、
「一方で、こうした労働の逼迫化は景気回復への足カセとして作用している状況も経済統計で浮かび上がってきていた」
「企業や投資家の不動産取得が活発になり、オフィスや店舗などの商業地を中心に地価を押し上げている一方で、東京圏の郊外など一部の住宅地では、消費税引き上げの影響に加えて、建築費の高騰が地価上昇を抑え始めていることが浮き彫りとなっていった」
「価格転嫁による物価の上昇が消費者の購買マインドを冷やして、有効需要が減退していったのが2016年以降。実際、外食居酒屋チェーンのワタミが人件費の高騰から既存店舗の1割以上を閉鎖する等経営者マインドの悪化につながるケースもちらほら聞こえていた」
最後に評論家が苦虫を潰したような顔でこう話します。
「ここでマイナス金利導入となっていったわけだが、今となっては、あれがノーリターンポイントで金融システムがおかしくなっていき、融資態度がバブル期のように緩くなってしまって、多くの不良債権をつくるもとになってしまったんだ。結果の円安不況だ」
「円安で喜ぶ製造業はすでに海外移転を終えており、円安の意味がなく、輸入品を中心に生活費だけ上がっていった。あんなことをしなくても物価は労働賃金の上昇を反映して上がって行ったんだ」
「いずれにせよ、デフレ脱出直後の当時からは今日の状況は想像もできなかったことではある。しかし、雇用情勢が劇的に変化したのに気がつくべきだった。構造的失業率は日本では3.5%と言われており、2016年では3.6%だった。真剣に賃金上昇から物価が上昇する姿をイメージする必要があったのだ」
「そしてこのことは、少子高齢化が進む国内では、一過性ではない構造問題として長く物価高を方向づけていくものだった」
どうしても働かなくてはいけない老人の数が増えていく一方で、技術がある若者は少子化の影響もあり、どんどん少なくなっていきました。高い賃金の仕事は若者や海外に奪われて、大量に雇うことができる老人には安い賃金の、単純作業の仕事だけが回ってくるという世の中になっていきました。
以上はフィクションの話ですが、よく考えていただきたいのは、人口オーナス下にある日本の姿です。