今回は、アベノミクスがもたらす影響と、インフレへの対策などを見ていきます。※本連載は、英系投資顧問会社SPRING社の取締役で、グローバルマクロ戦略主任である塚口直史氏の著書、『情報を「お金」に換えるシミュレーション思考』(総合法令出版)の中から一部を抜粋し、自然災害・高齢化によって起こり得るリスクストーリーを考え、対策をシミュレーションしていきます。

アベノミクスにより記録的な円安・株高となったが…

前回触れた「人口オーナス」では、第1に、労働力不足が成長を妨げることが顕著になってきます。第2に、資本不足で投資が制約されることが挙げられます。人々は老後に向けて貯蓄しているわけなので、老後にはその貯蓄を切り崩していくためです。

 

第3に、社会保障制度の維持が不可能になることです。その結果、現役世代の社会保障積立という負担額を増やすか、老後世代の社会保障費の支払いを減らすことをしない限り、この制度の維持は不可能となります。

 

そうした中でも、実は第1の労働力不足が昨今顕著になってきています。

 

2012年12月26日にスタートした第2次安倍内閣によるお上主導の経済対策で、景気は約3年間は回復に向かって行きました。

 

具体的には、①異次元金融緩和、②機動的かつ大規模な財政出動、③TPP(環太平洋経済協定)推進に代表される規制緩和の、「3本の矢」と呼ばれるものです。

 

この施策と、衆参ねじれ現象の解消を伴う、圧倒的な自民党の勝利による長期安定政権、そしてその経済対策への期待が、国内金融市場に大きなうねりをもたらしました。いわゆるアベノミクスです。

 

2013年には、年間でドル円為替レートが85円から105円へと、約21 %という過去2番目となる大幅な円安が示現したことや、日経平均株価指数が約56%も暴騰するという、戦後4番目となる記録的な円安・株高となるほどの期待と市場へのインパクトがありました。

生産性の低下で高まるインフレ懸念

一方で、期待やコストカットだけではなく、新産業創出という形で産まれていく真の有効需要に基づいた、持続性のある付加価値の創造を求められているのが今年の日本の課題です。

 

しかし、賃金のコストカットですら難しくなりつつある現状が浮き彫りとなってきています。輸出数量が伸び悩み、明確な経済成長パスが描けない中で、労働力不足によって、労働賃金と物価において、下方硬直性が顕著になってきたためです。

 

今の物価をベースに理論的な日銀の政策金利を算出して見ると、インフレ目標を2%とした場合、その理論値はマイナス金利どころではなく、2%を超えるものとなっており、途方もない数字になるほどです。これは、引き上げられた消費税の影響と労働環境のタイト化で、大幅に上昇基調になっているためです。

 

日銀が2013年4月4日に決定し、市場で「バズーカ砲」とも言われた「量的・質的金融緩和」が、「3本の矢」の中でも一番大きな効果を、特に円安を導く過程で発揮したことは周知の事実です。

 

導入直後は長期金利が1%に乗るなど、マーケットが荒れた所を、新規国債発行の7割に相当する量を日銀が買い取るという人為的に金利を押さえ込んだことが奏功したためです。

 

しかし、この「異次元金融緩和」を導入する前提がデフレ脱却であるなら、インフレ目標を達成した後、金利の「正常化」観測が浮上してくる可能性は否定できません。

 

過去、3回の大幅な株式市場の上昇は、朝鮮特需の1951年(118%)、1952年(63%)、日本列島改造ブームの1972年(92%)でした。

 

いずれもその後に大きな賃金上昇とインフレ懸念と金利の上昇が株式市場の低迷につながったことを頭に入れながら、今後の国内金融市場の推移を見ていく必要がありそうです。

 

今でこそ、デフレ脱却がテーマになっているわけですが、人口動態の変化に基づいて考えていくと、生産性の低下によって、国内はインフレになる可能性が高くなると思われます。

 

そうした時に備えて今から色々対応を取る必要があるというアドバイスです。

 

たとえば、住宅ローンは変動金利ではなく固定金利にするのも一つのインフレへの対応策となるでしょう。また、インフレ通貨は外貨対比で理論的には下落するのが常なので、海外への輸出ビジネスや外貨保有を拡大するなど、収入面での変化を生活に取り入れるのも一手です。

情報を「お金」に換える シミュレーション思考

情報を「お金」に換える シミュレーション思考

塚口 直史

総合法令出版

思い描く人生を歩むためには仕事でもプライベートでも、自分なりの「ストーリー」を描き、「シミュレーションすること」が必要です。このシミュレーションをせず周りの意見に流されて行動したり、思いつくがままに行動すると、…

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