安全な場所なのに苦しい…家族が初めて知った母の本音
長女は、その言葉に驚きました。
老人ホームに入れば、母は安心して暮らせると思っていたからです。転倒の心配も減り、食事も用意され、誰かの目がある。家族にとっては、施設入居は「正しい選択」に見えていました。
しかし芳江さんにとっては、そう単純ではありませんでした。
食堂で同じ席に座っていても、周囲の入居者と会話が弾むとは限りません。体調や認知機能に差があり、話が合わないこともありました。職員は親切でしたが忙しく、長く話し込む時間はありません。
「寂しくないと思っていたけど、家にいたときより寂しい日もあるの」
長女は、母がそこまで孤独を感じているとは思っていませんでした。
厚生労働省『介護保険事業状況報告』によると、要支援・要介護認定者は高齢化に伴って増加しており、介護サービスや施設利用は多くの家庭にとって身近な選択肢になっています。ただし、施設入居は生活上の安全を確保する一方で、本人の心理的な負担や環境変化への適応も大きな課題になります。
芳江さんの場合、施設への不満が明確にあるわけではありませんでした。食事も職員の対応も、特別に悪いわけではない。ただ、自宅で積み重ねてきた暮らしの感覚が、急に失われてしまったのです。
「ここが嫌いなわけじゃない。でも、私の家じゃないの」
その言葉に、長女は胸が詰まったといいます。
その後、家族はケアマネジャーに相談し、今後の選択肢を整理しました。自宅へ戻る場合は、手すりの設置、見守りサービス、訪問介護、配食サービスを組み合わせる必要があります。一方、施設に住み続ける場合でも、外出や友人との交流、以前の生活習慣を取り戻す工夫はできます。
現在、芳江さんは施設に住みながら、月に数回、自宅近くの友人と会う時間を作っています。家族も、面会時に外へ散歩に連れ出すようになりました。
老人ホームは、高齢者の暮らしを支える大切な選択肢です。しかし、家族にとっての安心が、本人にとっての納得と一致するとは限りません。
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