IT企業の業績やベンチャー企業の資金調達の状況などによって、サンフランシスコ・ベイエリアの不動産価格は大きく変わります。今回は、サンフランシスコ・ベイエリア不動産市況を動かす、いくつかの要因について見ていきましょう。

増加するシリコンバレー地区の「ベンチャー」への投資

前回は、米国都市圏における知的労働者階層の割合が、不動産価格にどのような影響を与えているかを検証しました。

 

今回は、サンフランシスコ・ベイエリア不動産市況に影響を与えていると思われるいくつかの要因について、2016年第4四半期の数字をアップデートしていきます(2016年第2四半期の数字は連載第19〜21回、2016年第3四半期の数字は連載第24回をご参照ください)。

 

まずは、2017年1月末の世界時価総額トップ10のランキングの企業を見ていきましょう。米国株式市場を牽引しているのが、サンフランシスコ・ベイエリアの巨大IT企業3社であると分かります。

 

[図表1]世界時価総額トップ10の企業

出所:ヤフーファイナンス等、2017年1月末時点、単位:10億米ドル
出所:ヤフーファイナンス等、2017年1月末時点、単位:10億米ドル

 

それでは内容をみますと、上位に5社のIT企業が占めており、10位以内にサンフランシスコ・ベイエリア所在の企業が4社入っています。ニューヨーク圏が2社、シアトルが2社となっています。また、上位50社まで見るとサンフランシスコ・ベイエリアが11社、他米国企業が22社、中国・香港・台湾系が8社、欧州系が5社、韓国系1社・日系が1社となっています。

 

ちなみに、日系企業はトヨタで、ランキング32位(時価総額:176十億米ドル@112.78〔2017年1月末終値〕=19.8兆円)に留まっています。

 

次に、シリコンバレー所在の巨大IT3社(アップル・グーグル・フェイスブック)の業績についてもアップデートしますが、3社とも極めて絶好調と言えます。

 

[図表2]シリコンバレー所在の巨大ITの業績

※GOOGとFBの2016年数値は第4四半期までの数値
(但し、アップルは2016第3四半期から2017第1四半期決算数値に第2四半期予想を加えた)
出典:各社決算資料のデータに基づきBAMI社が作成
※GOOGとFBの2016年数値は第4四半期までの数値
(但し、アップルは2016第3四半期から2017第1四半期決算数値に第2四半期予想を加えた)
出典:各社決算資料のデータに基づきBAMI社が作成

 

アップルについては、2017年第1四半期はすべての製品について史上最高の売り上げを計上していますが、2016年1年を通してみると、2015年より軟調推移でした。今後もサムスン電子の携帯電池不具合から、相当シェアを伸ばすものとみられます。

 

フェイスブックについては、最近の売上・EBITDA(営業キャッシュフロー)の伸びにより、バリエーションに落ち着きを見せてきています。

 

3社合計のEBITDA(営業キャッシュフロー)の伸びに比して、時価総額(株価)・企業価値を順調に伸ばしていることから、EBITDA倍率は17倍と、成長企業の数値としてはやや楽観的になってきたとはいえ、決してバブル状況とは言えません(2000年ネットバブル時は100倍までいきました)。

 

3社合計の時価総額で180兆円超(トヨタの時価総額の10倍弱)と驚くべき数字ではありますが、営業キャッシュフロー見合いということを考えれば、極めて理にかなっていると言えるでしょう。

 

以下は、Pwc社が発表している、ベンチャー企業の資金調達に関わるMoneyTreeです。今回はシリコンバレー地区における過去20余年の取引件数と資金調達額の推移を見てみます。

 

[図表3]ベンチャー企業の資金調達に関わるMoneyTree

 

2014〜2015年の投資額は、2000年ITバブル時ピークに近づいたことが分かります。2016年度の投資額がUSD24B(=約3兆円弱、全米規模6兆円弱)となっており、2016年着地で2014〜年水準をやや下回るレベルとなりました。

 

特徴的なのは、2016年はピークアウトしたかもしれないこと。また、2014〜2016年におけるベンチャー投資額の全米に占めるシリコンバレー地区の割合が件数および投資額ともに増加したことです。

 

[図表4]ベンチャー投資額の全米に占めるシリコンバレー地区の割合

【出典:Pwc社のデータに基づきBAMI社が作成】
出典:Pwc社のデータに基づきBAMI社が作成

 

[図表5]2012〜2017年のベンチャー投資額

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出典:Renaissance Capital 社

シリコンバレー中心地の不動産価格は若干落ち込む

次に、過去5年間のIPO統計について見てみましょう。昨年度は2003年以来の最も低い水準に終わりました。しかしながら、2016年度のIPOリターンは26%と過去3年で最も良い利回りとなりました。現在の低いバリュエーションはIT企業のIPOの起爆剤となりませんでした。

 

[図表6]過去5年間のIPO統計

【出典:米国労働省のデータに基づきBAMI社が作成】
出典:米国労働省のデータに基づきBAMI社が作成

 

大統領選も終わり、2017年はIPO候補銘柄も増えており明るい兆しが見えています。件数としては150〜200件、調達額は3〜5兆米ドルと2014年水準になることをルネッサンス・キャピタル社は予想しています。

 

雇用情勢ですが、2016年第4四半期は非農業部門の数値は復調し、失業率も給与手当の水準も前四半期から良化し全米水準を超える結果となりました。サンフランシスコ・ベイエリアは完全雇用状況が続いていることから、給与の伸びになって過熱感が確認されています。

 

それでは、サンタクララ郡を除いたサンフランシスコ・ベイエリアにおける戸建て価値総額を指数としている、「S&Pコアロジックケースシラー指数(SF版、季節調整済)」のグラフをご覧ください。

 

2017年1月最終週に発表になった2016年11月分データを反映させると、2016年8月に入り、価格が持ちなし期近のピーク(2016年3月)越えて価格上昇が継続していることがわかります。

 

[図表7]S&Pコアロジックケースシラー指数

【出典:セントルイス連銀のデータに基づきBAMI社が作成】
出典:セントルイス連銀のデータに基づきBAMI社が作成

 

また、シリコンバレーの中心地にあるパロアルトにおける戸建て中間価格(高価格帯に属する地区)についても、2016年前半期が軟調だったがここにきて価格が持ち直すものの、2017年2月第一週に発表になったデータが大きく落ち込んでいます。

 

[図表8]パロアルトにおける戸建て中間価格推移

【Trulia社のデータに基づきBAMI社が作成】
Trulia社のデータに基づきBAMI社が作成

 

それでは、サンフランシスコ・ベイエリアにおける共同住宅(アパート)の賃貸需給を見ていきましょう。下記は、Axiometrics社が最近作成した加州内大都市毎の家賃成長率推移です。

 

[図表9]

(出所:Axiometrics社, https://www.axiometrics.com)
出所:Axiometrics社, https://www.axiometrics.com

 

ロサンゼルス、サンディエゴ都市圏の家賃成長がスローダウンする一方、サンフランシスコ・ベイエリアは家賃成長がマイナスに転じました。リーマン危機後5年程度高騰が継続した反動でしょう。

 

2017年1月最終週に決算発表となった共同住宅(アパート)REITでサンフランシスコ・ベイエリアにポートフォリオを持つ3銘柄を見ると、伸び率がスローダウンしているとはいえ、2016年第4四半期において前年同期比ベースで、3%後半から4%台の成長が確認されます。

 

また、営業キャッシュフローベースでも3〜5%程度の成長が確認できます。前四半期比較でみると2016年第4四半期は家賃がマイナス成長であったことが確認できます。

 

エセックス・プロパティ社の第4四半期でのサブマーケット毎の前四半期比の家賃成長では、アラメダ・コントラコスタおよびサンタクララ郡がマイナスでした。特にアラメダ郡のマイナスは2.8%にもなりました。

 

[図表10]アパートREIT銘柄の営業キャッシュフロー

【出典:各社決算資料のデータに基づきBAMI社が作成】
出典:各社決算資料のデータに基づきBAMI社が作成

 

最後に、資本(売買)市場に触れることにしましょう。下記の図表11は、サウスベイ地区(シリコンバレー)における共同住宅(アパート)売買単価推移です。

 

[図表11]サブマーケット毎・共同住宅世帯単価推移

 

2016年はパロアルト・マウンテンビュー等の高額物件地区の単価低下がみられる一方、サンノゼの中低額物件地区の単価上昇が見られます。平均値としては価格上昇が継続しております。

 

ただし、ネット利回り(CAPレート)は2015年まで低下傾向だったのが、2016年に入り上昇に転じています。長期金利上昇の影響を受け、さらにネット利回りが上昇する可能性があるかもしれません。

 

[図表12]サンタクララ郡 共同住宅市場指数

 

過去数年高値が継続して投資機会に恵まれなかったサンフランシスコ・ベイエリアですが、賃貸および売買マーケットがようやくスローダウンしてきたことから、1〜2年かけて全米にこの傾向が拡散していくでしょう(特に供給面でゆるやかな地域には注意が必要です)。

 

IT産業で米国経済を牽引しているこのサンフランシスコ・ベイエリアは、供給不足が継続する中、数年後からいち早くピックアップしていく可能性が高いと思われますので、そろそろサンフランシスコ・ベイエリアでの投資準備に入ったほうがよいかもしれません。

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