原油100ドル時代突入…原油高で「安全資産」金に陰りも、利下げ期待で「5,000ドルシナリオ」維持なるか【5月の金市場】
(※画像はイメージです/PIXTA)
2026年5月の金市場は、イラン紛争による原油高と、揺れ動く利下げ観測が交錯するなかで、方向感のつかみにくい展開となりました。原油価格が100ドル前後で高止まりすれば金の上値は重くなる一方、和平進展や利下げ期待が強まれば、金は再び5,000ドル台を試す可能性があります。投資家心理は慎重ながらも押し目買いは根強く、中国の現物需要や中央銀行の金購入、さらに財政悪化と債務膨張といった構造要因が金市場を下支えしています。本稿では、5月の金価格を左右する主要テーマを整理します。なお、本稿はステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの4名のストラテジストによる共同執筆です。
オイルショックで金価格の短期的な方向が不透明に
原油価格急騰が金を圧迫
戦争開始以降、ブレント原油価格は50%超急騰し※8、4月30日には一時、2022年以来の最高値となる1バレル当たり126ドル※9に達し、金価格は圧力を受けています。
このエネルギーショックが、FRBのタカ派的姿勢、実質金利の上昇、ドル高などの金に対する逆風をさらに増幅させているからです。戦争開始以降、中期ゾーンの実質金利は原油価格とともに上昇しており(+26bp)、金を保有する機会費用は一時的に高まっています※10。
FRBの政策金利見通しも大きく変わり、戦争前に織り込まれていた累計約58bpの利下げから転じて、小幅ながらも利上げが意識されるようになりました※11。これは、ホルムズ海峡の混乱を背景に、短期的なインフレ期待が上昇し続けているためです。
空前規模の「オイルショック」に
現在のオイルショックは、前例のない規模になっています。統計によれば世界の原油供給は3月に日量約1,000万バレル減少し、同9,700万バレルまで落ち込み、史上最大の供給混乱をもたらしました※12。
一方でホルムズ海峡からの原油積み出し量は、危機前の日量2,000万バレルに対し、平均日量380万バレルにとどまり、物理的なボトルネックは4月に入っても深刻な状況が続きました※13。失われた供給量の累計は3月時点で3億6,000万バレルを超え、4月は4億4,000万バレルに達すると見込まれています※14。
仮に紛争が終結しても、損傷したインフラ、タンカーの滞留、石油製品市場の混乱、在庫の枯渇などにより、正常化には時間を要するでしょう。当社は、原油価格が1バレル当たり80〜85ドル付近に落ち着けばインフレ圧力が緩和され、FRBの利下げ観測が復活し、金価格が再び1オンス当たり5,000ドル強に戻る可能性があるとみています。
対照的に、原油価格が120〜140ドルという展開になれば、金にとって少なくとも短期的には逆風となる可能性が高くなり、インフレ圧力の高止まり、金利上昇、FRBの利下げの遅れ、あるいは利上げ観測の上昇が意識されるでしょう。
とはいえ、こうしたエネルギー価格がもたらすショックが持続すれば、世界的な景気後退やスタグフレーションに陥るリスクを高め、最終的には金価格を支える可能性があります。これは、市場が、成長鈍化、政策支援、あるいは極端な下落リスクに備えるための流動性の高い準備資産に対する需要増を織り込むからです。
ロシア・ウクライナ戦争との違い
2022年のロシア・ウクライナ紛争は、有益な比較対象となります。当時、金は当初こそ地政学的リスクに備える需要から上昇しましたが、市場の注目はすぐにエネルギー価格の上昇が招くインフレ、FRBの金融政策、実質金利、ドルへの影響へと移りました※15。2022年の金価格はほぼ横ばいでしたが、制裁リスクが中央銀行による金購入を加速させました※16。
同様の構図が現在にもあてはまる可能性があります。主権国家が流動性、バランスシートの柔軟性、外部の政策リスクに対する防御手段を必要とする局面では、金が果たす役割が拡大するためです。
最近ではトルコ、フランス、ロシアが好例です※17。さらに、紛争が長期化して財政負担が悪化すれば(世界の債務総額は約348兆ドル※18、米国の純利払い費は1兆ドル超え※19、米国の国防費予算要求額は約1兆5,000億ドル)※20、金の戦略的準備資産としての役割は一段と高まる可能性があります。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントは、約半世紀にわたり、機関投資家、金融プロフェッショナル、そして個人投資家に、より良い成果をもたらしてきた。
インデックス運用やETF(上場投資信託)分野における早期からの取り組みを含め、同社の投資手法は、市場に裏付けられた運用ノウハウと、投資家ニーズへの継続的な対応を基盤としている。
2025年6月末時点において、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが関与する運用資産残高は5兆米ドルを超えており、60カ国以上の顧客に対してサービスを展開している。その中には、グローバル規模での戦略的パートナーシップを通じた提供も含まれ、コスト効率に優れた幅広い投資手段を提供している。ETFの運用資産総額1兆6,898.3億米ドルを含み、そのうち約1,160.5億米ドルは、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ・ファンズ・ディストリビューターズ・エルエルシー(「SSGA FD」)がマーケティング・エージェントを行っているSPDRの金の資産となっている。SSGA FDはSSGAの関連会社で、すべての運用資産残高は監査前の数値。
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連載【ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント】金市場を徹底分析
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〈注記〉
※1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※2 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※3 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※4 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※5 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※6 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※7 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※8 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※9 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※10 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※11 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※12 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※13 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※14 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※15 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※16 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※17 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※18 Source: IIF, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※19 Source: CBO, as of 02/28/2026
※20 Source: Bloomberg Financial L.P., as of 04/30/2026
※21 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※22 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※23 Source: Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※24 Source: State Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※25 Source: State Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※26 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 05/01/2026
※27 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 05/01/2026
〈出所〉
★1 出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年4月30日時点。注:20分間隔のデータ。欠測値については、直近の価格データを用いて補完しています。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★2 出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。2026年4月30日時点。注:30日間の実現ボラティリティは年率化しています。 記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
★3 出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、米議会予算局(CBO)、2026年5月1日時点。注:CBO-長期予算見通し:2026〜2056年、2026年2月25日発行。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
〈用語集〉
中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関。
COMEX:コモディティ(主に金、銀、銅、アルミニウム)の先物を取引する市場
金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
ICEブレント:インターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されるブレント原油先物で、国際的に取引される原油の主要なベンチマーク価格の一つです。
レフトテール・ヘッジ:株式急落、政策ショック、通貨の不安定化など、極端に悪い市場結果(下振れ)からポートフォリオを守るためのポジション。金は、市場全体におよぶストレス局面における過去のパフォーマンスから、レフトテール・ヘッジとして位置づけられることが多いです。
30日移動平均ボラティリティ:資産の過去30日間のリターンの年率換算標準偏差を測定、変動するリスクを示すため毎日更新されます。価格変動の激しさを定量し、値が高いほどリスクが大きいことを示します。
ディベースメント(通貨価値の切り下げ):通常、インフレ、過剰な通貨発行、あるいは時間の経過とともに通貨の価値を弱める政策によって引き起こされる、通貨の実質価値または購買力の低下を指します。
タカ派的な政策転換:中央銀行や政策当局のメッセージが金融引き締め方向へとシフトすることで、通常、政策金利の引き上げ、利下げ幅の縮小、あるいはインフレ抑制の強化を示唆します。
代替不換通貨:主要な準備通貨(特に米ドル)の代替として使用される、非伝統的な不換通貨を指します。
米議会予算局(CBO):超党派の米国議会機関で、議会に対して独立した予算および経済分析を提供しています。CBOは、提出された法案についてのコストの試算、連邦予算の予測、財政赤字・債務・利払い費・長期的な財政の持続可能性などを含む財政見通しを分析しています。CBOは政策提言は行いません。
国際金融協会(IIF):銀行、資産運用会社、保険会社、政府系ファンド、ヘッジファンド、中央銀行やその他世界の金融機関を代表する国際的な金融業界団体です。IIFは各国政府、家計、企業、金融機関の債務水準を追跡する「グローバル債務モニター」で広く知られています。
国際エネルギー機関(IEA):世界のエネルギー市場に関するデータ、予測、政策分析、提言を提供する政府間エネルギー機関です。IEAは1974年、大規模な石油供給の混乱に対する各国の対応を調整するために設立されましたが、現在では、その活動範囲は、石油、ガス、電力、再生可能エネルギー、エネルギー安全保障、エネルギー転換に及んでいます。